マルキア水道

マルキア水道（Aqua Marcia）

マルキア水道は、古代ローマにおける偉大な土木事業の一つであり、紀元前144年から紀元前140年にかけて、当時の法務官クィントゥス・マルキウス・レクスによって建設された壮大な水道施設です。この水道は、ローマ市への安定した水供給を目的とし、その清浄な水質で知られていました。

建設の費用は、紀元前146年にローマが勝利したコリントスの戦いや第三次ポエニ戦争で得られた戦利品から捻出されました。当初の予算は1億8000万セステルティウスという巨額に上り、当時のローマが国家事業としてこの水道建設にどれほど力を注いだかがうかがえます。この水道は、その後の時代にも重要視され続け、初代皇帝アウグストゥスの側近であるアグリッパや、アウグストゥス自身によって拡張工事が行われたことが、現在もティブルティーナ門に残る碑文から確認できます。

水源はローマの東方、約91キロメートル離れたアニオ川の上流部に位置し、現在のアルソリやアーゴスタといった町に近い場所から地下水が取り込まれました。そこから地下水路と地上に築かれた水道橋を経て、ローマ市街へと導かれました。水はティブルティーナ門を通過して市内に流れ込み、主に市街地の東部に位置する区域、特にヴィミナーレの丘へ最初に供給されました。そこからさらに分水され、チェリオの丘、アヴェンティーノの丘、パラティーノの丘、そしてカンピドリオの丘といった市内の主要な丘へ配水されました。

ローマ水道の運営に関わる最高責任者であったフロンティヌスの著作によると、数回にわたる拡張工事を経た後のマルキア水道の給水量は、1日に約187,600立方メートルに達しました。これは当時の古代ローマ水道の中で2番目に豊富な水量であり、その供給能力の高さを示しています。さらに、マルキア水道の水は、その冷たさと清浄さで古代ローマ市民から高く評価されていました。

水道の総延長は約91.3キロメートルに及び、その構造は大部分が地下の導水渠で構成されていました（約80.3キロメートル）。しかし、ローマ市に近づく約11キロメートルは地上の導水渠として建設されました。特にローマから約7マイルストーンの地点からは完全に地上となり、一部は構造物内を通り（約0.78キロメートル）、大部分（約9.6キロメートル）は堅固な水道橋の上を流れていました。この区間では、ユリア水道やテプラ水道といった他の水道と垂直に重ねられ、同じ水道橋を利用してローマ市内へ達するという独特の構造が見られます。

供給された水は、フロンティヌスの記録によれば、公共施設への供給は全体の割合としては少なく、そのおよそ4分の3が飲用水として利用されていました。飲用水の内訳としては、私邸への供給が全体の約49.3パーセント、公共の給水場への供給が約23.2パーセントを占めていました。マルキア水道の水を享受した著名な施設としては、巨大なカラカラ浴場（こちらは分岐したAqua Antoninianaを経由）やディオクレティアヌス浴場などがあります。

マルキア水道は古代ローマの栄華を支える重要なインフラでしたが、古代ローマ末期にはその機能は失われました。しかし、1586年になって、マルキア水道の構造物の多くを再利用する形で、フェリクス水道として再建されました。このフェリクス水道は現在も機能しており、古代のマルキア水道の遺産は、形を変えつつも現代にその流れを伝えていると言えます。

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