一山一寧

一山一寧：元から来た高僧、そして日本の禅と朱子学の祖

一山一寧（いっさん いちねい、生没年：1247年 - 1317年）は、中国浙江省出身の臨済宗の高僧です。俗名は胡といい、幼くして出家し、律宗と天台宗を学んだ後、臨済宗に転じました。天童山や浄慈寺で修行を重ね、阿育王寺の頑極行弥から法を継承したと伝えられています。その後、環渓惟一らに師事し、各地を遊学しました。

一山一寧の名が歴史に刻まれるのは、元と日本の関係においてです。元が二度目の日本遠征（弘安の役）に失敗した後、和平的な従属関係を築こうと、使者を日本に派遣しました。当初、使者として選ばれたのは補陀落山観音寺の愚渓如智でしたが、高齢のため、その職を継いだ一山一寧が代わりに選ばれました。

正安元年（1299年）、一山一寧は、元から日本の鎌倉幕府への国使として派遣されました。彼には、西礀子曇という、8年間日本に滞在経験のある通訳が同行していました。しかし、鎌倉幕府は元軍の再来を警戒し、一山一寧を伊豆の修禅寺に幽閉しました。

鎌倉幕府は、それ以前にも元からの使者を処刑した例がありましたが、一山一寧は高僧であり、しかも通訳同伴であったことなどから、命を落とすことはありませんでした。修禅寺での幽閉生活後、一山一寧は鎌倉近くの草庵に移り住み、彼の名声は次第に高まっていきました。

北条貞時は、一山一寧の徳に感銘を受け、永仁元年（1293年）の地震で被害を受けた建長寺の再建を命じ、彼を住職に迎えました。その後、一山一寧は円覚寺、浄智寺の住職を歴任し、さらに後宇多上皇の懇請により、南禅寺の三世住職となりました。

一山一寧は、帰一寺（静岡県）、慈雲寺（長野県）、太清寺（長野県）などの開山となり、臨済禅の隆盛に大きく貢献しました。彼は学識にも優れ、多くの弟子を育てました。その中には、雪村友梅など、五山文学を代表する文人墨客も含まれています。自身も能筆家として知られ、多くの墨蹟が重要文化財に指定されています。

さらに、一山一寧は朱子の新註を伝え、日本朱子学の祖とも言われています。彼の多大な功績は、禅宗の普及のみならず、日本の文化・学問にも大きな影響を与えました。

文保元年（1317年）、一山一寧は南禅寺で亡くなりました。花園天皇より一山国師の諡号が贈られ、彼の生涯と功績は『一山国師語録』として後世に伝えられています。彼の存在は、日中関係史、禅宗史、そして日本の文化史において、重要な位置を占めていると言えるでしょう。

彼の生涯を記した書籍として、『一山国師七百年遠諱記念　鎌倉時代の南禅寺と一山国師』（原田正俊著）と『帰一寺開山一山一寧国師七百年大遠諱記念　一山一寧墨蹟集』（衣川賢次著）が挙げられます。これらは、一山一寧の生涯や思想を理解する上で貴重な資料となっています。

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