テューモイテース

古代ギリシャ神話において、テューモイテース（古代ギリシャ語: Θυμοίτης）という名は、様々な系譜に連なる複数の登場人物に用いられています。長母音を省略したテュモイテスという表記も一般的です。この名前を持つ人物の中で、特に有名なのは、トロイアの長老、トロイアの武将、そしてアテナイの王として語られる三人です。それぞれの伝説や生涯は大きく異なりますが、以下にその詳細を述べます。

まず第一に挙げられるのは、トロイアの長老の一人であるテューモイテースです。彼はホメロスの叙事詩『イーリアス』にもその名が見える、トロイアの重鎮です。この人物の系譜については二つの説があります。一つはトロイアの王ラーオメドーンの息子であるという説、もう一つはラーオメドーンの娘であり、後のトロイア王プリアモスの姉にあたるキラの夫であるという説です。特に後者の伝承には、彼のその後の行動に繋がる悲劇が語られています。それは、プリアモスが「トロイアを破滅させる子が生まれる」という神託を誤って解釈し、テューモイテースの妻キラとその間に生まれた息子ムーニッポスを殺害してしまったというものです。この凄惨な出来事により、テューモイテースはプリアモスに対して深い遺恨を抱くことになります。トロイア戦争が終結に近づき、ギリシャ軍が撤退した後に巨大な木馬が残された際、彼はこの恨みから、プリアモスに対して、ギリシャ軍の罠である可能性を無視して木馬を城内に引き入れるよう強く進言したと伝えられています。この進言が、結果的にトロイア滅亡の決定的な要因の一つとなったと考えられています。

第二の人物は、これもトロイアに関連するテューモイテースで、ヒケターオーンの息子にあたる人物です。ヒケターオーンはトロイア王ラーオメドーンの息子であり、プリアモスの兄弟にあたります。このテューモイテースには、メラニッポス、クリトラーオスという兄弟がいたとされています。トロイアがギリシャ軍によって陥落した後、彼は生き残ったトロイアの英雄アイネイアースとその一行に加わり、新たな故郷を求めてイタリア半島への長い航海に乗り出しました。しかし、イタリアに到着した後、彼は現地のルーリー族の王族であるトゥルヌスとの戦いに巻き込まれ、その戦いの中で命を落としたと語られています。

そして第三に、アテナイの王位を継承したテューモイテースがいます。彼はアテナイの王デーモポーンの息子であるオクシュンテースの子として生まれますが、彼は嫡出の子ではなく庶子でした。父オクシュンテースの正当な後継者は、嫡子である異母兄弟のアペイダースでした。オクシュンテースが亡くなった後、アペイダースがアテナイの王位を継ぎましたが、テューモイテースは王位への強い野心を抱いていました。彼は遂に、自らの手で兄アペイダースを殺害し、力ずくでアテナイの王位を奪い取ったと伝えられています。このようにして簒奪者として王位に就いたテューモイテースでしたが、彼の治世は長くは続きませんでした。後にメラントスという人物によって王位を追われ、アテナイから追放されました。テューモイテースの追放をもって、アテナイの伝説的な建国王テーセウスに始まる王統は途絶えたと伝えられています。

このように、テューモイテースという名は、トロイア滅亡の原因を作った人物、トロイアの落人としてイタリアに渡った人物、そしてアテナイの王位を簒奪した人物と、それぞれ異なる伝説を持つ複数の人物に与えられており、古代ギリシャ神話の多様性を示す一例と言えるでしょう。

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