テラー・ウラム型

テラー・ウラム型とは

テラー・ウラム型（Teller-Ulam design）は、多段階式メガトン級熱核兵器、すなわち水爆の基本構造を指します。この名称は、1951年にこの構造を考案した物理学者エドワード・[[テラー]]と数学者スタニスワフ・ウラムに由来します。

この構造は、核融合反応を効率的に起こすために、まず核分裂反応を利用して核融合燃料を圧縮・加熱する点が特徴です。具体的には、原子爆弾を起爆剤として使い、そのエネルギーで核融合燃料を圧縮・加熱します。

基本原理

テラー・ウラム型の核兵器は、複数の段階を経て爆発エネルギーを連鎖的に増幅させる多段階構造をしています。最も基本的な構成は、核分裂爆弾であるプライマリー（第一段階）と、核融合燃料を収めたセカンダリー（第二段階）で構成されます。必要に応じて、セカンダリーと同様の構成を持つターシャリー（第三段階）を追加することも可能です。

プライマリーが爆発すると、発生したエネルギー放射がセカンダリーを圧縮し、核融合燃料が加熱されて核融合反応が始まります。

各段階の構成

プライマリー（第一段階）: 核分裂爆弾であり、小型の原子爆弾が用いられます。核分裂反応を強化するため、少量の核融合燃料が添加されることもあります。この爆発により、プルトニウム239やウラン235が圧縮され、連鎖反応が開始されます。
セカンダリー（第二段階）: 核融合燃料を収めた円筒形の構造体です。外側にはプッシャー・タンパーと呼ばれるウラン238や鉛でできた層があり、核融合燃料の圧縮を助けます。核融合燃料には重水素化リチウムが用いられ、プライマリーからのエネルギーと中性子により、三[[重水素]]が発生し、重水素との核融合反応を起こします。中心部にはスパーク・プラグと呼ばれる核分裂物質が配置されており、圧縮されることで核分裂反応を起こし、核融合反応をさらに促進します。
ターシャリー（第三段階）: 必要に応じて、セカンダリーと同様の構造を追加し、さらなる核融合反応を誘発することができます。

エネルギー伝達の仕組み

プライマリーからセカンダリーへのエネルギー伝達は、テラー・ウラム型の重要な要素です。プライマリーの核分裂反応によって発生する高温高圧のガス、電磁波、中性子を、セカンダリーに効率的に伝える必要があります。このエネルギー伝達が不十分だと、セカンダリーは完全には起爆せず、不完全な核爆発（フィズル）に終わる可能性があります。

エネルギー伝達の具体的な仕組みは機密情報であり、複数の説があります。有力な説としては、プライマリーの核分裂反応で発生するX線を使い、セカンダリーの圧縮を行うというものです。また、ポリスチレンなどの発泡剤をプラズマ化し、その圧力で圧縮を行うという説もあります。

エネルギー伝達の各理論

中性子放射説: プライマリーの中性子を利用する初期の理論ですが、効率が悪く採用されませんでした。
衝撃波説: プライマリーの衝撃波を利用する理論ですが、これも効率が悪く採用されませんでした。
X線放射圧力説: プライマリーのX線放射を利用してセカンダリーを圧縮する理論で、初期の実用的な方法とされました。
発泡剤プラズマ圧力説: X線で発泡剤をプラズマ化し、その圧力でセカンダリーを圧縮する理論です。
タンパー・プッシャー蒸発圧力説: X線でタンパーを蒸発させ、その反動でセカンダリーを圧縮する理論で、現在最も有力な説とされています。

開発の歴史

テラー・ウラム型の開発は、アメリカとソ連を中心に進められました。

アメリカ: 1952年に「アイビー作戦」で最初のテラー・ウラム型熱核爆弾を実験しました。その後、小型化が進められ、ミサイル搭載可能な核弾頭が開発されました。
ソ連: 1953年に「スロイカ」と呼ばれる独自の構造の核融合兵器を開発しましたが、テラー・ウラム型には及ばず、後にテラー・ウラム型をベースとした改良型を開発しました。
イギリス: 米国から技術提供を受け、独自に熱核爆弾を開発しました。
中国: 短期間でテラー・ウラム型熱核爆弾の開発に成功しました。
フランス: 1968年に核実験を実施し、テラー・ウラム型熱核兵器を開発しました。

その他の国々

インド、イスラエル、パキスタン、北朝鮮なども核兵器を保有していますが、テラー・ウラム型かどうかは不明確な点も多く、様々な推測がなされています。

情報公開の現状

テラー・ウラム型に関する情報は、機密性が非常に高く、詳細な情報はほとんど公開されていません。アメリカ政府は、情報漏洩を認めること自体が内容の正確性を裏付けることになるため、公開されている情報も曖昧な記述にとどまっています。

ジャーナリストのハワード・モーランドが1979年に発表した記事をきっかけに、基本的な動作原理が一般に知られるようになりました。しかし、現在も詳細な設計や技術は厳重に機密として扱われています。

まとめ

テラー・ウラム型は、核兵器の中でも最も強力な熱核兵器を実現するための重要な技術です。この構造は、核分裂と核融合を組み合わせることで、巨大なエネルギーを生み出すことを可能にしました。技術的な詳細は機密扱いであり、依然として謎に包まれた部分も多いものの、その基本的な原理は広く知られるようになり、世界各国の核戦略に大きな影響を与え続けています。

参考資料

GlobalSecurity.org
NuclearWeaponArchive.org
Alsos Digital Library for Nuclear Issues
PBS: Race for the Superbomb
The Progressive
* University of Southampton, Mountbatten Centre for International Studies

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