テーレゴノス

ギリシア神話におけるテーレゴノス：悲劇の運命と物語の継承

テーレゴノスは、ギリシア神話に登場する、オデュッセウスと魔女キルケーの息子です。「遠くで生まれた者」を意味するこの名は、父オデュッセウスの不在と、異国の地アイアイエー島での誕生を象徴的に示しています。

ホメロスの『オデュッセイア』には登場しませんが、その生涯は後の叙事詩『テーレゴネイアー』（現存せず）で描かれていたと伝えられています。この物語は、テーレゴノスがキルケーから毒を塗られた槍を与えられ、成長後に父を探してイタケー島にたどり着くところから始まります。しかし、彼はオデュッセウスであることに気づかず、父を殺害してしまいます。

この悲劇的な出来事の後、テーレゴノスはオデュッセウスの遺体、異母兄テーレマコス、ペーネロペーとともにアイアイエー島へ戻ります。キルケーは彼らに不死を与え、テーレマコスはキルケーと、テーレゴノスはペーネロペーと結婚するという、驚くべき結末を迎えます。この物語は、『テーレゴネイアー』以外にも、ソポクレースの悲劇『エイの棘に刺されたオデュッセウス』（現存せず）、アポロドーロス、オッピアノス、ヒュギーヌスなどの著作にも見ることができます。

複数の文献によると、テーレゴノスがオデュッセウスを殺す際に用いた武器は、キルケーが与えたアカエイの棘を穂先につけた槍でした。オッピアノスは『漁夫訓』において、アカエイの毒の恐ろしさを語る中で、この事件を引用しています。ヒュギーヌスは、テーレマコスがオデュッセウスを助けたと記しており、物語の解釈に違いが見られる点を示しています。また、アポロドーロスは、テーレゴノスとペーネロペーの結婚と、キルケーによる至福の島への送還について記述しています。

テーレゴノスは、イタリア半島におけるいくつかの都市の創建者とも伝えられています。オウィディウスは『祭暦』で、彼がイタリアに都市を建設したと述べており、プルタルコスはテーレゴノスがアポローンの神託に従ってプリニストゥム（現在のプラエネステ）を建設したと記しています。

テーレゴノスという名は、「遠くで戦う者」を意味するテーレマコスと対比的に用いられ、父から遠く離れた場所で生まれた彼の運命を象徴しています。父を殺害する息子というモチーフは、印欧神話において広く見られる共通点であり、テーレゴノスの物語は、ラーイオスとオイディプース、アルジュナとバブルヴァーハナなど、他の神話上の父子関係との関連性を示唆しています。

『オデュッセイアー』におけるテイレシアースの予言と、テーレゴノスによるオデュッセウスの死は一見矛盾するように見えますが、予言の曖昧な表現に着目することで、両者の整合性が指摘されています。この物語は、『オデュッセイアー』以前から存在していた伝承が、後世の詩人によって再解釈され、継承されてきたことを示していると考えられています。また、テーレゴノスとペーネロペーの結婚は、オイディプース王伝説の影響を示唆する見方も存在します。

テーレゴノスの物語は、単なる悲劇的な父子関係を超え、神話における普遍的なテーマ、そして物語の伝承と解釈の多様性を示す重要な事例と言えます。様々な文献からの情報を比較検討することで、この複雑で魅力的な物語の全貌をより深く理解することができます。

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