ディエゴ・コリャード

ディエゴ・コリャードの生涯と業績

ディエゴ・コリャード（Diego de Collado、1589年？ - 1641年8月）は、スペイン出身のドミニコ会宣教師で、17世紀初頭の日本において重要な役割を果たしました。彼は、日本語の研究に貢献した『日本文典』や『懺悔録』の著者として知られる一方で、日本での布教活動を巡りイエズス会との間で激しい論争を繰り広げた人物でもあります。

生い立ちと宣教活動

コリャードは、スペインのエストレマドゥーラ州カセレス県にあるミアハーダスという町で生まれました。1604年にサラマンカのサン・エステバン修道院でドミニコ会に入会し、宣教師としての道を歩み始めます。1611年には、アルフォンソ・ナバレテ・ベニト率いる宣教団の一員としてフィリピンに派遣され、マニラに到着しました。その後、ミンダナオ島のカガヤンで宣教活動に従事しました。

日本への潜入と布教活動

1619年、コリャードはキリスト教が禁止されていた日本に潜入しました。長崎、有馬、大村といった地域で密かに布教活動を展開し、1621年にはドミニコ会日本管区長代理という要職も務めました。また、同年には教皇庁から長崎の26殉教者（1597年殉教）の列福調査判事に任命され、その報告書をまとめるという重要な任務も果たしました。さらに、日本滞在中にハシント・オルファネルの『日本キリシタン教会史』完成に協力し、後年、自らその『補遺』を記しています。

元和の大殉教と帰国

1622年、平山常陳事件でイギリス平戸商館に捕らえられていたドミニコ会同僚のルイス・フロレスの救出活動に参加しますが、フロレスは火刑に処されます。その後、カトリック聖職者や信徒が多数処刑される「元和の大殉教」が起こり、コリャード自身は難を逃れたものの、この悲劇の目撃者となりました。同年11月、報告のため日本を離れマニラに戻り、さらにローマ教皇国へと向かいました。1623年にはローマに到着し、列福調査報告書を教皇庁に提出しました。

イエズス会との対立

日本における布教の「権利」をめぐり、ポルトガル系のイエズス会と、後から来たスペイン系のアウグスチノ会、フランシスコ会、ドミニコ会との間には大きな軋轢がありました。コリャードは、日本での迫害の一因としてイエズス会による長年の日本布教の独占を指摘し、1624年に日本イエズス会に対する告訴状を提出しました。この一件は偽作とされ決着しましたが、1628年にはイエズス会を批判する同趣旨の書籍をスペインで発行したため、上長から叱責を受けることとなりました。

日本語研究への貢献

1632年、コリャードは布教聖省の許可を得て、『日本文典』、『羅西日辞書』、『懺悔録』を刊行しました。これらは「日本語三部作」「コリャード三部作」と呼ばれ、日本語史研究において貴重な資料となっています。

『日本文典』：ラテン語で書かれた日本語の文法書であり、当時の日本語の構造を分析する上で重要な資料です。
『羅西日辞書』：ラテン語、スペイン語、日本語の対訳辞書であり、当時の日本語の語彙を知る上で貴重な資料です。
『懺悔録』：日本人信徒の懺悔（告解、ゆるしの秘跡）を日本語（ラテン文字表記）とラテン語で記録したもので、当時の信徒の生活や風俗習慣を知る上で重要な資料です。

晩年と死

その後、コリャードはどの管区にも属さない宣教師団を率いてフィリピンに渡り、1635年にマニラに到着しました。アジアを拠点とするイエズス会に対抗する新しい教会組織作りを試みましたが、失敗に終わりました。その後、スペイン国王の命によって追放され、帰国途中に（インド洋上、またはマニラ出帆後まもなく）乗船が遭難して死亡したと伝えられています。

主な日本語出版

『日本キリシタン史補遺』 (Suplemento y adiciones a la historia ecclescastica de los sucessos de la christiandad de Japon, 1621-1622)
井手勝美訳『日本キリシタン教会史補遺 : 1621-1922年』（雄松堂書店、1980年）
『日本文典』(Ars grammaticae Iaponicae linguae)
大塚高信訳『コリャード 日本文典』（風間書房、1957年）
『羅西日辞書』(Dictionarivm sive thesavri lingvæ Iaponicæ compendivm)
大塚光信解題・索引『羅西日辞典』（臨川書店、1966年）
『懺悔録』(Niffon no Cotõbani Yô Confesion / Modus Confitendi et Examinandi)
大塚光信校注『懺悔録』（岩波文庫、1986年）
日埜博司著『コリャード 懺悔録 : キリシタン時代日本人信徒の肉声』（八木書店古書出版部、2016年）


コリャードの生涯は、宣教師としての熱意、学術的な功績、そして宗教的な対立という複雑な側面を併せ持っています。彼の残した資料は、当時の日本語や日本のキリスト教史を研究する上で欠かせないものとなっています。

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