ディオクレティアヌス宮殿

ディオクレティアヌス宮殿：古代ローマ皇帝の壮麗な隠居地

ディオクレティアヌス宮殿は、3世紀末から4世紀初頭にかけて、ローマ皇帝ディオクレティアヌスによって建設された壮大な宮殿です。現在のクロアチア、スプリトに位置し、その歴史的・建築的価値からユネスコの世界遺産に登録されています。

歴史的背景

ディオクレティアヌス帝は、305年に退位後、この宮殿を隠居の地として選びました。建設は退位の10年前、295年から開始され、ダルマティア属州の州都サロナからほど近い、海岸沿いの景勝地に位置しています。

中世には忘れ去られていたこの宮殿は、18世紀に再発見され、建築家ロバート・アダムによって詳細な図面が公開されました。この図面は、ヨーロッパの建築様式に大きな影響を与え、新古典主義の隆盛に貢献しました。

建築的特徴

宮殿の平面は不規則な長方形で、東西南北にそれぞれ門が設けられています。外観は、豪奢な別邸の様式と、堅牢な城塞の様式を兼ね備えているのが特徴です。城壁に囲まれた内部は、かつて9000人以上を収容できたと言われています。

南側のファサードは海に面しており、アーケード付きの柱廊が特徴的です。他の3つのファサードに比べて装飾が凝っており、皇帝の居住区としての威厳を示しています。

内部は、東西に走るデクマヌスと、南北に走るカルドという2つの主要な道によって区画されています。南半分は皇帝の居住区や宗教施設が置かれ、北半分は兵士や使用人の居住区として使われていたと考えられています。

周柱式の中庭（ペリスタイル）は、皇帝の居住区への入り口であり、同時にディオクレティアヌス廟（現在の聖ドミヌス大聖堂）や神殿へのアクセスポイントでもありました。

建築資材

宮殿の建設には、地元の白い石灰岩や高品質の大理石が用いられました。大理石は主にブラチ島の石切り場から、凝灰岩は近隣の河床から調達されました。また、エジプトから輸入された花崗岩の円柱やスフィンクスなども装飾に用いられています。

水道施設

宮殿に水を供給するため、サロナ近くのヤドロ川から水道が引かれていました。スプリトからサロナへの道沿いには、当時の水道の遺跡が残っています。

世界遺産としての価値

ディオクレティアヌス宮殿は、その保存状態の良さから、古代ローマ建築の傑作として高く評価されています。また、宮殿と周辺のスプリト歴史地区は、文化的な重要性から1979年にユネスコの世界遺産に登録されました。

しかし、世界遺産に登録されているにもかかわらず、宮殿内での新たな建築物の建設が許可されるなど、保全に関する課題も存在しています。

登録基準

この世界遺産は、以下の登録基準を満たしています。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
* (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

スプリトの語源

スプリトの地名は、ラテン語の「palatium」（宮殿）に由来するという説がありますが、実際には近隣のギリシャ人入植地アスパラソスに由来し、サンザシを意味するとされています。

ディオクレティアヌス宮殿は、古代ローマ帝国の栄華を今に伝える貴重な遺産であり、訪れる人々を魅了し続けています。

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