ディオルコス

ディオルコス：古代ギリシアの運搬路

ディオルコス（Δίολκος）は、古代ギリシア時代にコリントス地峡に建設された、船を陸上で輸送するための舗装路です。その名前は、「横断する」を意味するδιάと「連水装置」を意味するλκόςに由来します。

ディオルコスの機能

主な目的は、船、特に貨物船を地峡を越えて移動させることで、ペロポネソス半島を迂回する危険な航海を回避することでした。マタパン岬やマレアス岬といった外洋に面した場所は、強風で知られており、航海の難所でした。ディオルコスを利用することで、イオニア海とエーゲ海の間を安全かつ迅速に移動できました。最短距離は約6.4キロメートルで、航海距離を大幅に短縮できました。

歴史

ディオルコスの建設時期は明確には分かっていませんが、発掘された陶器などから、紀元前7世紀末から6世紀初頭にかけて、コリントスの僭主ペリアンドロスによって建設されたと考えられています。紀元1世紀中ごろまでは定期的に使用されていたようですが、その後は記録から姿を消します。ネロ帝が試みた運河建設が、ディオルコスの衰退に影響を与えた可能性も指摘されています。

戦時における役割

ディオルコスは、軍事作戦においても重要な役割を果たしました。軍艦を迅速に移動させる手段として利用され、歴史家たちの記録にも、地峡を越えて軍艦が運ばれた事例が複数残っています。例えば、紀元前428年にはスパルタがアテネを脅かすために、紀元前411年にはペロポネソス戦争中に艦隊を迅速に移動させるために利用されました。また、紀元前220年にはデメトリウスが、紀元前31年にはオクタウィアヌス（後のアウグストゥス）が艦隊を移動させるために利用しています。

商業的な役割

ディオルコスの主な目的は、軍事的な利用よりも商業的な貨物輸送であったと考えられています。大プリニウスやストラボンといった著述家の記録からも、平時における定期的な利用が示唆されています。特に、ギリシア建築の発展と時期が重なることから、大理石や木材などの重量物の輸送に利用されていた可能性があります。コリントスは、ディオルコスから通行料などを徴収していたと考えられます。

構造

ディオルコスは、地峡の最も狭い部分を横断しており、全長は6キロメートルから8.5キロメートル程度と推定されています。勾配を避けるために、地形に合わせて曲線を描いていました。路面は石灰岩で舗装され、約1.6メートル間隔で溝が刻まれていました。この溝は、車輪付きの車両を誘導するためのものと考えられています。船は、車輪付きの車両に載せられ、人や動物によって牽引されました。

輸送方法

船の輸送方法については、古代の文献にはほとんど記述がありません。考古学的な証拠から、車輪付きの車両に船を載せて運んでいたと考えられています。25トン程度の三段櫂船も輸送可能でしたが、通常は小型のボートが利用されていたようです。船の竜骨を保護するために、ロープで船体を補強する必要がありました。必要な人員は、勾配や路面の状態によって異なり、100人以上が必要であったと推定されています。

古代の鉄道

イギリスの科学史家M.J.T.ルイスは、ディオルコスを「鉄道の原型」と評価しています。線路を整備し、車両を誘導するという基本的な考え方は、鉄道に通じるものがあります。また、有料で誰でも利用できる公共鉄道という点も、特筆すべき点です。

発掘調査と現状

コリントス運河の主任技術者であったベーラ・ゲルスターは、地峡の調査を行いましたが、ディオルコスを発見できませんでした。その後、ドイツの考古学者ハッボ・ローリングがその存在を認識し、1956年から1962年にかけて、ギリシャの考古学者ニコラオス・ヴェルデリスによって組織的な発掘調査が行われました。しかし、運河の建設や侵食により、遺跡の状態は悪化しており、保護が求められています。

古代の文献

ディオルコスについては、トゥキディデス、アリストパネス、ポリュビオス、ストラボン、大プリニウスなど、多くの古代の著述家が言及しています。

ディオルコスは、古代ギリシアの技術力と交易の発展を示す貴重な遺産です。

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