ディスクマガジン

ディスクマガジンとは

ディスクマガジン（disk magazine、略してdiskmag）は、コンピュータで読み取って処理することを前提に、プログラムやデータをフロッピーディスクや光ディスクなどの媒体で提供した雑誌のことです。紙媒体の雑誌が主流だった時代に、デジタルコンテンツを配布する画期的な方法として登場しました。

ディスクマガジンの歴史

前史

雑誌をコンピュータ用のデータで配布するという試みは、ディスクマガジン以前にも存在しました。アメリカでは、ARPANET（インターネットの前身）を通じて、不定期刊行の記事や雑誌状の文字データが配布されていました。これはオンラインマガジンの初期形態と言えるでしょう。パソコン通信の普及により、一般の人々もネットワーク経由でデータ交換が可能になりましたが、アクセス環境の確保が難しく、回線速度や通信料金も高額だったため、文字データや小さなプログラム以外をやり取りするのは現実的ではありませんでした。

一方、紙媒体の雑誌は安価で広範囲に情報を届けられ、パソコン雑誌には多くのプログラムリストが掲載されていました。しかし、プログラムを実行するには手入力が必要で、打ち間違いがあれば修正する必要があるため、時間と手間がかかりました。ディスクマガジンは、ネットワークの問題や手入力の煩わしさを解消し、プログラムを即座に実行できるという利点がありました。

ディスクマガジンの前身としては、カセットテープを用いたカセットマガジンも存在しましたが、出版数はごくわずかでした。

誕生

1980年代前半、フロッピーディスクドライブが安価になると、フロッピーディスクを用いたディスクマガジンが登場し、普及しました。アメリカでは1981年9月にApple II用のSoftdiskが創刊されました。当時はフロッピーディスクが高価だったため、読者はディスクを返送し、再利用することが前提でした。読者は交流や投稿を兼ねて、様々なデータをディスクに上書きして返送していました。

日本での隆盛

パソコン分野は主に欧米で発展しており、日本には数年遅れて様々なディスクマガジンが登場しました。日本におけるフロッピーディスクドライブの製造販売は1981年のソニーが最初でしたが、数年で急成長し、1988年には世界市場の9割を占めるまでになりました。記録装置と記録媒体の価格は年々低下し、所有者は急増しました。特に、安価なホビーパソコンであるMSXがディスクドライブを搭載するようになった1980年代後半には、ディスクステーションが登場し、2000年まで長く続くことになります。また、ファミリーコンピュータのディスクシステム登場により、家庭用ゲーム機にもディスクマガジンが登場しましたが、市場規模の割には種類はあまり多くありませんでした。

この頃のディスクマガジンには、市販品のデモ、過去のゲーム、独自開発のゲーム、読者投稿の画像や音楽、デモ作品などが収録され、コンピュータ時代の雑誌にふさわしい内容となっていました。しかし、紙媒体の雑誌を越えるほどの大きな影響力を持つものはありませんでした。

衰退

紙媒体の雑誌にフロッピーディスクやCD-ROMを安価に添付できるようになったこと、1995年のWindows 95の登場とインターネットの普及により、ディスクマガジンは次第に衰退していきました。インターネットの接続料金が安くなり、回線速度が速くなるにつれて、ディスクマガジンは優位性を失い、2000年を越えることなくほとんどが消滅しました。

欧米のディスクマガジンを源流とするオンラインマガジンの中には、HugiやPaiNのように、インターネットで配布するようになってからもディスクマガジンと名乗るものもありました。これらの多くは、デモシーンと密接な関連を持っています。

同人誌としての復活

ディスクマガジンが市場から姿を消した後も、低価格化したフロッピーディスクやCD-Rを用いた同人ディスクマガジンが、旧型機向けに多く登場しました。同人ディスクマガジンは2000年以降も続き、Syntaxの「NV」のように10年以上続いたものもあります。ソフトベンダーTAKERU上で市販品と同列に販売されたため、同人誌の枠を超えて流通したものもありました。しかし、ブロードバンドの普及と旧型機に固執する人の減少に伴い、これらの同人ディスクマガジンも次第に消滅していきました。

ディスクマガジンの主な内容

ディスクマガジンには、以下のようなコンテンツが含まれていました。

記事（Static）：通常の雑誌の記事のように、文字と画像で構成されたコンテンツです。
マルチメディア：文字、画像、動画、音声などを組み合わせたコンテンツです。容量が限られていたため、プログラミングで表現されることが多くありました。
投稿（Interactive）：クイズ、アンケート、読者からの投稿などを掲載したコーナーです。初期には意見や文章の掲載が主でしたが、次第に絵、音楽、ゲームなど多様な投稿が掲載されるようになりました。
ソフトウェア：ゲーム、ユーティリティなど、様々なソフトウェアが収録されていました。独自作品、市販品の紹介、完全版、体験版、シェアウェアなど、形態も多岐にわたりました。
デモ：単なる製品紹介ではなく、芸術作品としてのデモが掲載されていました。欧米では広く流行し、長く続いています。日本ではディスクステーションが独自のデモ作品を掲載していました。

主なディスクマガジン

海外のディスクマガジン

Softdisk (1981～1999): Apple II向けに創刊されたアメリカの代表的なディスクマガジンです。

日本のディスクマガジン

DiskFM/DiskPC/TapeMZ (1983年10月～1984年): 日本で初期のディスクマガジンです。FM7、PC88、PC98、MZ向けに展開されました。TapeMZはカセットマガジンです。
Floppy Magazine (1984年4月～?): ラッセル社出版が発行したSMC-777向けの冊子一体型ディスクマガジンです。
ZETA (1986年6月～1987年8月): チャンピオンソフトが発行したバーチャルアイドルを特集したディスクマガジンです。紙の雑誌とセットで販売されました。
OMEGA (1986年～1987年): チャンピオンソフトが発行した成人向けのディスクマガジンです。ZETAよりも大人向けの内容でした。
LEMONADE (1986年12月～1987年3月): チャンピオンソフトが発行した成人向けのディスクマガジンです。後のアリスソフトの作品につながる要素がありました。
電脳倶楽部 (1988年5月～2000年8月): 満開製作所が発行したX68000向けのディスクマガジンです。最も長く続いたディスクマガジンの一つです。
Carrot Party DM (1989年？): Carrot Partyが発行したX68000向けの月刊誌です。ユーザーの投稿した改造データが人気を集めました。
ディスクステーション (1988年7月～2000年7月): コンパイルが発行したMSX、PC98、Windows向けのディスクマガジンです。MSX版は特に人気が高く、ディスクマガジンブームの火付け役となりました。
T&Eマガジン Disk Special (1988年12月～1989年6月): T&E SOFTが発行したMSX向けのディスクマガジンです。自社ゲーム関連のネタが中心でした。
DISC Pana Amusement Collection (1989年): 松下電器産業が発行したMSX向けのディスクマガジンです。
LAB Letter (1989年~1990年): HAL研究所がHALNOTEの登録会員向けに発行したディスクマガジンです。
MSX-Spring (1989年): アスキーがMSXマガジンと協力して発行したMSX向けのディスクマガジンです。
MSXディスク通信 (1990年10月～1991年4月): アスキーがMSXマガジンと連動して発行したMSX向けのディスクマガジンです。
PEACH UP (1989年11月～1991年11月): もものきはうすが発行したMSX向けの成人向けディスクマガジンです。
DISMIX (1989年12月～1990年12月): SOFTPALが発行したPC98向けのディスクマガジンです。CG中心の構成でした。
PINK SOX (1990年～1994年): ウェンディマガジンが発行したMSX、PC98向けの成人向けディスクマガジンです。
DISK NG (1990年3月～1990年4月): ナムコが発行したMSX向けのディスクマガジンです。同社の過去のゲームを収録しました。
MSX・FAN (1991年9月～1995年7月): 徳間書店が発行したMSX向けの雑誌です。途中からフロッピーディスクを付属させてディスクマガジン化しました。
MSX-TraiN (1992年12月～1993年10月): ファミリーソフトが発行したMSX向けのディスクマガジンです。

家庭用ゲーム機のディスクマガジン

謎のマガジンディスク ナゾラーランド (1987年2月～1988年3月): サンソフトが発行したファミリーコンピュータ向けのディスクマガジンです。
ULTRABOX (1990年6月～1992年1月): ビクター音楽産業が発行したPCエンジン向けのディスクマガジンです。
PCエンジンCD-ROMカプセル (1992年12月～1994年9月): 小学館が発行したPCエンジン向けのディスクマガジンです。
animefreak FX (1995年8月～1998年2月): NECホームエレクトロニクスが発行したPC-FX向けのディスクマガジンです。
プレプレ (1995年11月～1999年8月): ソニー・コンピュータエンタテインメントがPlayStation CLUB会員向けに郵送したディスクマガジンです。
Tech Saturn (1995年6月～1997年9月): アスキーがセガサターン専門誌に付属させたCD-ROMです。
サターンスーパー (1995年8月～1997年4月): 宝島社がセガサターン専門誌に付属させたセガ監修のCD-ROM体験マガジンです。
* モギタテセガサターン (1997年11月～1998年): セガがSEGA PARTNERS会員向けに配布したCD-ROMマガジンです。

まとめ

ディスクマガジンは、デジタルコンテンツを配布する初期の形態として、コンピュータ文化の発展に大きく貢献しました。技術の進歩とともにその姿を変えながらも、独特な文化を形成し、現在でも同人誌の世界でその形式は生き続けています。

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