デイビッド・パーナス

デイビッド・ロージ・パーナス：ソフトウェア工学の先駆者

デイビッド・ロージ・パーナス（David Lorge Parnas、1941年2月10日 - ）は、ソフトウェア工学における先駆的な人物であり、特にモジュール設計の概念を創出したことで広く知られています。彼の業績は、ソフトウェア開発の分野に多大な影響を与え、オブジェクト指向プログラミングの基礎を築く上で重要な役割を果たしました。パーナスは、単に技術的な貢献だけでなく、ソフトウェア工学のプロフェッショナル化や倫理的な側面にも深く関わってきました。

経歴

パーナスは、カーネギーメロン大学で電気工学の博士号を取得後、カナダでプロの技術者として認定されました。この認定は、ソフトウェア設計者としては初めてのものでした。その後、カーネギーメロン大学で長年にわたり教鞭を執り、その知識と経験を多くの学生に伝えました。また、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ダルムシュタット工科大学、ビクトリア大学、クイーンズ大学、マックマスター大学、リムリック大学など、世界各地の著名な大学でも教鞭を執り、国際的な教育活動を展開しました。

受賞歴

パーナスの業績は、数々の賞によって認められています。主な受賞歴には、ACM最優秀論文賞（1979年）、チューリッヒ工科大学からの名誉学位（1986年）、社会的責任を考えるコンピュータ専門家の会（CPSR）からのノーバート・ウィーナー賞（1987年）、ソフトウェア工学国際会議最有力論文賞（1991年と1995年の2回）、ACMフェロー（1994年）、ルーヴァン・カトリック大学からの名誉博士号（1996年）、ACM SIGSOFTの優秀研究賞（1998年）、IEEE Computer Society 60周年記念賞（2007年）、ルガーノ大学からの名誉学位（2008年）、ドイツコンピュータ学会フェロー（2008年）、IEEEフェロー（2009年）などがあります。

業績

モジュール設計

パーナスの最も重要な業績の一つは、モジュール設計の概念です。彼は、モジュール内の凝集度を高め、モジュール間の結合度を低くすることが、モジュール性の高いソフトウェア設計の基礎であると提唱しました。彼の1972年の論文「On The Criteria To Be Used in Decomposing Systems into Modules」では、情報隠蔽（Information Hiding）という概念を用いてこの考え方を説明しています。この論文は、ソフトウェアのモジュール化に関する考え方に革命をもたらし、後のオブジェクト指向プログラミングの発展に大きく貢献しました。

技術行動主義

パーナスは、技術者としての責任を深く自覚しており、1980年代半ばには、アメリカの戦略防衛構想（スターウォーズ計画）に反対する立場を明確にしました。彼は、核攻撃を防ぐことを保証できるほど完璧なソフトウェアを書くことは不可能であると主張し、技術的な側面だけでなく、倫理的な側面からもこの計画を批判しました。この活動が評価され、彼は1987年にCPSRから最初のノーバート・ウィーナー賞を受賞しました。また、ソフトウェア工学のプロ化にも積極的に関わり、ソフトウェア開発における倫理的な問題についても積極的に発言しています。

学術的評価手法に対する批判

パーナスは、学術的な生産性を評価する際に、論文の出版数のみを用いることに批判的な立場を取っています。彼は、2007年の論文「Stop the Numbers Game」で、論文数に基づいた学術評価システムが、知識の発展を阻害し、科学の進歩を妨げていると主張しました。彼は、論文の質や影響度を重視すべきであると提唱し、学術評価のあり方について警鐘を鳴らしました。

語録

パーナスの言葉には、彼のソフトウェア開発に対する深い洞察が反映されています。

• - 「…フローチャートに基づいてシステムをモジュールに分解することは、多くの場合不正確である。代わりに私たちは、難しい設計上の判断や変更されそうな設計上の判断のリストから分割を始めることを提案する。各モジュールはそういった設計上の決定を他から隠蔽するよう設計される。」

• - 「学生には最新テクノロジーよりも基本的考え方により多くの注意を払うようアドバイスするだろう。テクノロジーは彼らが卒業する前に最新ではなくなる。基本的考え方は決して古びない。しかし、これについて私が心配するのは、一部の人々がチューリング機械やゲーデルの定理を基本だと考えるだろうという点である。私もそれらが基本的だと思うが、それらは実用とはほとんど無関係である。私は基本的な設計原理、例えば構造化プログラミング原則、「オブジェクト指向」プログラミングにおけるよいアイデアなどがあると思う。」

• - 「人工知能と知能の関係は、造花と花のような関係である。遠くから見ればよく似ているが、近くで詳細に見てみると全く違うものである。」

デイビッド・ロージ・パーナスの業績は、ソフトウェア工学の分野に多大な影響を与え、ソフトウェア開発のあり方を大きく変えました。彼のモジュール設計の概念や倫理的な立場は、今日のソフトウェア開発者にとっても重要な教訓となっています。

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