デュッセルドルフ・シュタットバーン

デュッセルドルフ・シュタットバーンは、ドイツの大都市デュッセルドルフを中心に、近隣のクレーフェルト、デュースブルク、ノイスといった都市間を結ぶ、地下区間を有する現代的な路面電車（シュタットバーン）ネットワークです。その歴史は古く、1898年に開業したヨーロッパ初の都市間電気鉄道にまで遡ります。長年の発展と地下区間の整備を経て、1988年に現在のシュタットバーンとしての本格的な運行が始まりました。この重要な公共交通システムは、デュッセルドルフおよび周辺地域の公共交通を担うラインバーン（Rheinbahn）によって運営されています。

黎明期から戦前・戦中へ

19世紀末、ライン川沿いの工業都市として急速に発展していたデュッセルドルフは、周辺都市との交通需要が増大していました。こうした背景の中、1896年に設立されたのがライン川鉄道会社、現在のラインバーンです。同社の最初の目標は、ライン川に橋を架けて対岸のクレーフェルトまで電気鉄道を通すことでした。この計画は実現し、1898年 12月15日には全長22.2kmの路線が開業しました。これは、後のシュタットバーンの起源となる、ヨーロッパ初の都市間電気鉄道（インターアーバン）でした。開業当初は旅客輸送のみでしたが、後に貨物輸送も開始され、1901年にはノイス方面への路線も開通するなど、ネットワークは拡大しました。これらの路線は多くの利用客に恵まれ、開業からわずか数年で飛躍的に乗客数を伸ばし、沿線の開発も促進しました。その成功を受けて、1907年以降はデュッセルドルフ市も運営に参画するようになりました。

しかし、第一次世界大戦が勃発すると、労働力や電力の不足、資材の枯渇により運営は困難に直面しました。戦後の混乱期を経て、1920年代には経済復興と共に鉄道も再生し、専用軌道の整備や橋梁の架け替えが進められました。クレーフェルト方面の路線では食堂車の運行も開始されました。この時期には、デュースブルクとの間を結ぶ都市間電気鉄道の建設も進められ、老朽化した既存路線に代わる高規格な路線として1926年に開業しました。

第二次世界大戦が始まると、再び路線網は戦火の影響を受けます。人員不足から女性運転士や捕虜が労働者として投入されました。特に1940年以降、デュッセルドルフへの空襲が激化し、運行継続が困難となり、1945年 3月には市内への甚大な被害により全線が運行を休止しました。

戦後復興とシュタットバーンへの転換

終戦後、ラインバーンは破壊された路線網の復旧に尽力しました。資材不足や食糧難といった厳しい状況下でも、労働者の支援を続けながら復旧を進め、1948年にはクレーフェルト方面での食堂車運行が再開されるまでになりました。

1950年代以降、デュッセルドルフ市内の路面電車網と共に、クレーフェルトやデュースブルクへ向かう都市間路線も発展を続け、地元メーカーであるデュッセルドルフ車両製造（デュワグ）製の連接車が多数導入されました。デュースブルク方面でも食堂車の運行が始まりましたが、採算性の問題から1960年代には運行を終了する路線もありました。

一方で、モータリゼーションの進展と人件費の増加により、ラインバーンは経営的に困難に直面し、公共交通のあり方が議論されるようになりました。こうした状況を打開するため、道路渋滞を緩和し、市内中心部の交通を円滑にする目的で、1968年に中心部の路線を地下化する計画がデュッセルドルフ市議会で採択されました。

1973年に地下化工事が開始され、1981年 10月3日に最初の地下区間が開業しました。この区間ではプラットホームが高床式となったため、対応車両には地上・地下双方のプラットホームに停車できるよう折り畳みステップが設置されました。その後も地下トンネルの建設は続き、デュッセルドルフ市創設700周年にあたる1988年に市内中心部を貫く地下区間が開通しました。これに合わせて、クレーフェルトやデュースブルク方面の路線も高規格化され、ここに「デュッセルドルフ・シュタットバーン」が誕生し、本格的な営業運転が開始されました。クレーフェルト方面では、シュタットバーン化を機に食堂車も一時的に復活しました。

ネットワークの拡張と新しい試み

シュタットバーン誕生後も、ネットワークの拡大は続きました。1989年からはデュッセルドルフ中心部を通る新たな地下区間の建設が進められ、1993年の開通によりノイス方面への系統がシュタットバーンに転換され、所要時間が短縮されました。2002年にはデュッセルドルフ南部へ向かう系統の地上線が地下化され、走行時間の短縮が図られました。

これらの区間では高床式プラットホームに対応した車両が使用されていましたが、2007年から建設が始まったヴェーアハーン線と呼ばれる全長3.4kmの新たな地下区間には、従来の路面電車規格、特に低床式プラットホームが採用されました。これは、狭隘な道路上の路面電車を地下に移設して高速化を図ることを目的としており、車両も超低床電車が導入されました。ヴェーアハーン線は2016年 2月20日に開業し、ラインバーン全体の利用客数増加に貢献しました。

一方で、長年親しまれた食堂車サービスは、利用客の減少や運営費の高騰により、1998年にデュースブルク方面、2014年にはクレーフェルト方面での営業を終了しました。

現在の運行と車両

2020年現在、デュッセルドルフ・シュタットバーンはデュッセルドルフとその周辺都市を結ぶ広範なネットワークを有しており、系統番号にはドイツ語で地下鉄を意味する「U」が付与されています。クレーフェルト方面の系統はクレーフェルト市電への直通運転を実施しており、デュースブルク方面のU79系統はデュースブルク交通との共同運営が行われています。

運賃体系は、ラインバーンが加盟するライン＝ルール運輸連合（VRR）のゾーン制に基づいて設定されており、利用区間に応じて料金が異なります。短距離利用券や24時間券、月間パスなど多様な乗車券が用意されています。支払いは信用乗車方式を採用しており、乗車前に券売機やスマートフォンアプリで乗車券を購入し、必要に応じて刻印機でバリデーションを行います。

使用されている車両は、高床式に対応したGT8SUやB80（B80D）といった連接車が主力を成しています。特にB80Dは、VVVFインバータ制御を採用した最初期のシュタットバーン車両として、長年運用されています。ヴェーアハーン線などの低床区間には、超低床構造の5車体連接車NF8Uが投入されています。老朽化した車両の置き換えや輸送力増強のため、ボンバルディア（現アルストム）製の新型電車HF6の導入が進められており、2022年から本格的な営業運転を開始しています。また、U79系統ではデュースブルク交通が所有するB80Cも運行されています。

親しみやすいマスコット「U-Dax」

シュタットバーンの地下区間建設にあたり、工事への不安や反発を和らげ、親しみを持ってもらうために、1973年にアナグマをモチーフにしたマスコットキャラクター「U-Dax」が誕生しました。青い作業服とヘルメットを着用したU-Daxは、工事の進捗に合わせて様々なポーズで登場し、ヴェーアハーン線建設以降はデザインもリニューアルされています。U-Daxはマスコットとして人気を博しており、イベントなどで配布される人形も存在します。

将来への展望

デュッセルドルフ・シュタットバーンは、将来的なネットワーク拡張計画も進行中です。新たな系統として、メッセ会場を経由して空港方面へアクセスを向上させるU81系統や、既存系統のバイパスとなるU80系統、U81系統の先行開業時に運行されるU82系統の導入が検討・計画されています。特にU81系統の空港方面への延伸は、ライン川左岸地域からの空港アクセス向上に大きく貢献すると期待されています。また、既存の地上区間の一部を地下化し、輸送力を増強する計画もあります。

車両面では、長年主力として活躍したB形電車の置き換えに向け、シーメンス社製のアヴェニオHF（Avenio HF）が109両導入される予定であり、2020年代前半からの製造・投入が見込まれています。

デュッセルドルフ・シュタットバーンは、歴史的な起源を持ちながらも、常に変化と発展を続け、デュッセルドルフおよび周辺地域の重要な都市交通インフラとして機能しています。

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