デルタ航空89便緊急着陸事故

デルタ航空89便緊急着陸事故の概要

2020年1月14日、ロサンゼルス国際空港を飛び立ったデルタ航空89便（ボーイング777-200ER）が、直後に右エンジンで圧縮機失速を起こし、緊急着陸を余儀なくされました。この事故で乗員乗客165人全員が無事でしたが、燃料投棄による周辺住民への被害が問題となりました。

事故発生

午前11時32分、乗員16名、乗客149名を乗せた89便は、ロサンゼルス国際空港を離陸しました。太平洋上空で上昇中に右エンジンが故障し、パイロットは管制官に引き返すことを伝えました。機体には上海浦東国際空港へ向かうための大量の燃料が積載されており、着陸重量超過が懸念されました。管制官は海上での燃料投棄を提案しましたが、パイロットは「機体は制御可能であり、危険な状態ではない」としてこれを拒否しました。その後、パイロットはロサンゼルス国際空港の25R滑走路への着陸を要請し、緊急着陸は成功しました。

燃料投棄による被害

しかし、緊急着陸のために空港へ引き返す際、89便はロサンゼルス郡内の広範囲に燃料を投棄しました。その範囲は、5つの小学校と1つの高校を含む5マイル（約8キロメートル）に及びます。特に、カダヒーのパーク・アベニュー小学校では多くの生徒が燃料を浴び、サウスゲイトの小学校でも複数の生徒が被害を受けました。当時、体育の授業中だった生徒たちは、雨だと勘違いしていたほどです。

事故の影響

燃料を浴びた生徒や教員を治療するため、救急隊が複数の学校に派遣されました。少なくとも56人が皮膚や肺への軽度の刺激を訴え、影響を受けた学校は清掃のため一時閉鎖されましたが、翌日には授業が再開されました。この事件は、CBSニュース、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズなど、多くのメディアで報道され、国際的な注目を集めました。

専門家の見解

航空専門家は、89便の乗員の行動に困惑しています。元ユナイテッド航空の機長は、人口密集地域での燃料投棄を「とんでもないこと」と批判し、安全専門家のジョン・コックスは、海上での燃料投棄をせずに低高度で燃料を投棄し続けた理由、そして燃料投棄を管制官に報告しなかった理由を説明する必要があると指摘しています。また、ボーイング777のパイロットであるレス・アベンドは、パイロットが着陸を遅らせる必要があったと2度管制官に報告したことを挙げ、チェックリストの完了と燃料投棄のための時間が必要だった可能性を示唆しました。しかし、なぜパイロットが海上で燃料投棄をしなかったのか、その理由は不明瞭です。

その後の対応

この事件を受け、シアトル・タコマ国際空港に近いベリアン市長は、空港運営者に対し同様の事態が発生した場合の緊急対応計画策定を要請しました。事故機は修理後、1月24日にデルタ航空の運航に復帰しています。

調査

連邦航空局（FAA）は、1月15日に89便の事故調査を開始しました。FAAは、燃料投棄は通常、高度の高い場所で、人のいない指定された場所で行われるべきであると述べています。また、燃料は地上に到達する前に霧状に分散すると説明しています。

この事故は、航空機の安全運航における燃料投棄の重要性と、緊急時におけるパイロットの判断の難しさを浮き彫りにしました。

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