トィル

トィルの概要

トィル（ロシア語: Тыр）は、ロシア連邦の東部、ハバロフスク地方のウリチ地区に位置する小さな町です。この町は、アムール川の河口から約140キロメートル上流に位置し、アムグン川がここで合流します。2012年のデータによれば、トィルの人口は582人です。

歴史的背景

トィル周辺は、古くから様々な王朝が幾度となく関与してきた歴史的な地域です。女真人の支配下にあった金朝が13世紀初頭まで、モンゴル帝国、大元ウルスが13世紀半ばから14世紀半ば、そして15世紀初頭には中国の明朝がそれぞれこの地域との外交を行っていました。これらの王朝はアムール川下流域の諸民族と交易を行い、ヌルガン城を拠点に冊封体制や羈縻政策の施策をおこなっていました。そのため、トィルは前近代の交易の中心地の一つとして重要な役割を果たしていました。

この史跡、ヌルガン城の存在は早くからロシアの探検家たちに知られていました。特に、1675年から1678年にかけて中国に外交使節として派遣された探検家N.G.スパーファリーは、アムール川の河口から2日遡った場所に石碑や鐘が存在することを報告しています。また、間宮林蔵が樺太を探検していた時、海上から永寧寺の塔が見える断崖を観察した記録も残されています。

発掘調査

ソビエト時代になると、ヌルガン城の塔はすでに失われ、代わりに砲台が築かれていました。しかし、遺跡の存在が認知され続け、ソビエト時代にはロシア科学アカデミー極東支部の歴史考古民族学研究所に所属していたアレクサンドル・アルテミエフによって、発掘調査が数度にわたり行われました。彼の研究成果は邦訳でも発表され、広く知られています。

このように、トィルは歴史的な背景や交易の重要性において、ロシア東部の文化の一環を形成している地域です。地域の発掘によって得られたデータは、歴史だけでなく、文化交流や民族関係についての理解を深めるために貴重な資料となっています。

引用文献の紹介

トィルの歴史や文化的背景を更に深く理解するために、以下の文献参照が推奨されます。

• - 塚瀬進『マンチュリアの社会変容と地域秩序 : 明代から中華人民共和国の成立まで』
• - 『北東アジアの歴史と文化』（菊池俊彦編）
• - 『北方世界の交流と変容 中世の北東アジアと日本列島』（臼杵勲・菊池俊彦・天野哲也編）
• - 『ヌルガン永寧寺遺跡と碑文』
• - 『中世の北東アジアとアイヌ 奴児干永寧寺碑文とアイヌの北方世界』

これらの文献は、トィルとその周辺地域における交流の歴史や文化的背景を学ぶための重要な資料です。

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