トゥーロン包囲戦 (1707年)

トゥーロン包囲戦：スペイン継承戦争における戦略的失敗と地中海の未来

1707年、スペイン継承戦争の最中、ヨーロッパの勢力均衡を揺るがす可能性を秘めたトゥーロン包囲戦が繰り広げられました。オーストリア、サヴォイア、イギリス、オランダからなる同盟軍は、フランス南部の要衝、トゥーロンの攻略を目指し、7月29日から8月21日まで包囲を敢行しました。

包囲に至るまでの背景

1706年、プリンツ・オイゲン率いるオーストリア軍はトリノの戦いでフランス軍を打ち破り、北イタリアから駆逐。さらに、ヴィリッヒ・フォン・ダウン率いる軍がナポリ王国を制圧し、イタリア半島はほぼ同盟軍の支配下となりました。しかし、イギリスとオランダは、オーストリアが地中海の覇権を握ることを警戒し、フランスの海軍基地トゥーロンへの遠征を提案。これは、フランスを南から圧迫するというイギリス軍総司令官マールバラ公ジョン・チャーチルの戦略と、サヴォイア公ヴィットーリオ・アメデーオ2世の思惑が一致したものでした。

遠征の遅延と内部対立

当初5月初旬に予定されていた遠征は、アルプスの雪解けの遅れ、ヴィットーリオ・アメデーオ2世の病気、そしてイギリス・オランダ連合艦隊の到着遅延により大幅にずれ込みました。7月になり、ようやく同盟軍はアルプスを越えてニースを占領し、26日にトゥーロンに到着。しかし、フランス王ルイ14世は各戦線に救援を要請し、トゥーロン守備隊は周辺の軍勢を集結させ、防御を固めていました。同盟軍は補給路の不安から撤退を主張するオイゲンに対し、ヴィットーリオ・アメデーオ2世とショヴェルは包囲を強行。司令部内には不協和音が響き始めました。

包囲戦の失敗と撤退

7月29日に始まった包囲戦は、同盟軍にとって困難の連続でした。食糧不足、赤痢の蔓延、脱走兵の続出により、戦力は徐々に低下。ヴィットーリオ・アメデーオ2世はオイゲンの消極的な姿勢を非難し、オイゲンも責任転嫁だと反論するなど、内部対立も深刻化しました。さらに、ベリック公とブルゴーニュ公兄弟率いるフランス救援軍の接近も、同盟軍を追い詰める要因となりました。

8月20日、ついに包囲中止が決定。同盟軍は22日に撤退を開始し、救援軍も到着前に引き返しました。撤退時、連合艦隊は海岸に停泊していたフランス艦隊を砲撃しましたが、フランス艦隊はすでに自沈しており、再建は困難な状況でした。しかし、この結果として連合艦隊の地中海進出は容易になったという側面もありました。

包囲戦後の影響

トゥーロン包囲戦は失敗に終わりましたが、同盟軍は9月にナポリを制圧し、イタリアにおけるオーストリアの支配を確立。これにより、オーストリアは軍を他の戦線に投入することが可能となりました。オイゲンはその後、スペイン領ネーデルラントへ赴き、マールバラ公と共闘。イタリア戦線では、ダウンとヴィットーリオ・アメデーオ2世が南フランスへの攻撃を繰り返しましたが、大きな戦果は得られませんでした。

一方、ショヴェルはイギリスへの帰還途中、シリー諸島沖で座礁事故に遭遇し、多数の犠牲者を出すという悲劇に見舞われました。この事故を契機に、イギリスでは船舶の正確な位置測定の重要性が認識され、経度法の制定と経度賞によるクロノメーター開発が促進されることになりました。

まとめ

トゥーロン包囲戦は、同盟軍の戦略的失敗に終わりましたが、地中海の勢力図、そして航海技術の発展に影響を与えた重要な戦いでした。この戦いを教訓に、ヨーロッパ各国はより緻密な戦略と連携を模索し、その後の国際関係に大きな影響を与えることとなりました。

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