トウヒレン属

トウヒレン属 (Saussurea)

トウヒレン属は、キク科アザミ亜科に分類される属の一つで、学名は Saussurea といいます。日本においては「塔飛廉属」という漢字表記が用いられます。

特徴

トウヒレン属の植物は、雌雄同株であり、二年草または多年草です。種によっては低木になるものも存在します。茎は直立または斜上しますが、頭花の重みによって上部がたわむことがあり、岩壁から垂れ下がるように生育する種もいます。茎の長さは種によって大きく異なり、数cm程度のものから、茎がないように見えるものまであります。

葉は単葉で互生し、縁は鋸歯状になるか、羽状に深く切れ込みます。葉柄には翼があることが多く、この翼が茎に沿って広がることで、茎に翼があるような外観を呈することがあります。

花期は種によって異なりますが、夏から晩秋にかけてです。頭花は筒状花のみで構成され、2個から多数がまとまって咲きます。頭花の色は紅紫色から淡紅紫色、白色など様々で、中には褐色や黄色の花を咲かせる種も存在します。特に白色の花をつける種は、日本に多く見られます。

総苞は球状、鐘形、筒形、狭筒形など、種によって形状が異なります。花床には剛毛が密生していることが多いですが、少ないものや全くないものも存在します。総苞片は4-12列に並び、その先端は圧着、斜上、開出、反曲など、様々な形態を示します。

果実は長楕円形または円柱形の痩果で、多少とも稜があります。冠毛は2輪生で、外輪は短く脱落しやすく、内輪は羽毛状で花後も残ります。

高山への適応

トウヒレン属の植物の中には、高山環境に適応するために特殊な形態を持つものがあります。ヒマラヤ地域では、特に顕著な適応例として「温室植物」と「セーター植物」と呼ばれるものが見られます。

温室植物: 花序の葉や包葉が広がり、花を覆うように変化したものです。これにより、花を寒さや強い日差しから守ります。
セーター植物: 花序の毛が長く伸び、花全体を覆い包むように変化したものです。これにより、花を保温し、受粉を助ける昆虫を引き寄せやすくします。

これらの適応は、特にセーター植物においては、トウヒレン属に特有の現象です。

分布

トウヒレン属は、北半球に広く分布しており、その種数は約400種に及びます。特に、中国大陸の横断山脈からヒマラヤ地域、ロシアのシベリアにかけて多くの種が分布しています。日本には60種以上の種が分布しており、これらの種は氷期の遺存種としての特徴を強く持っています。そのため、山系によって総苞や総苞片の形状にわずかな差異が見られることがあり、未だに未記載の分類群が存在する可能性も指摘されています。

学名の由来

属名 Saussurea は、18世紀のスイスの哲学者であり博物学者であった、オラス＝ベネディクト・ド・ソシュール (Horace-Bénédict de Saussure, 1740-1799) に献名されたものです。

分類

日本に分布するトウヒレン属の種は、主に以下の3つの節に区分されます。

1. ヒメヒゴタイ節 Sect. Theodorea
2. ユキバヒゴタイ節 Sect. Depressae
3. トウヒレン節 Sect. Saussurea

これらのうち、最も多くの種がトウヒレン節に属しています。トウヒレン節の分類においては、頭花の花柄の長さ、複花序の形態、総苞の形、総苞片の列数、茎の翼の有無、花期の根出葉の有無などが重要な分類形質として用いられます。

和名とその混乱

トウヒレン属の種には、「〇〇トウヒレン」「〇〇ヒゴタイ」「〇〇アザミ」といった和名がつけられており、これらの命名法は統一されておらず、しばしば混乱を招きます。初期の研究においては、本属の植物が十分に理解されていなかったため、既存の植物との比較によって安易に命名されたことが、この混乱の一因となっています。

「トウヒレン」という名前は、セイタカトウヒレンに由来すると考えられています。これは、直立した総状花序の様子が「塔」のように見えることから、「塔飛廉」と名付けられたとされています。「飛廉」は、中国においてキク科ヒレアザミ属 Carduus を指す言葉です。また、「ヒゴタイ」は同じキク科のヒゴタイ属 Echinops に由来しますが、両属の植物は外観が大きく異なります。「アザミ」という名前は、アザミ属 Cirsium との類似性から名付けられたと考えられますが、トウヒレン属の植物にはアザミ属のような刺がないため、容易に区別できます。

日本に分布する主な種

日本には多様なトウヒレン属の植物が分布していますが、ここでは代表的な種をいくつか紹介します。

ヒメヒゴタイ (Saussurea pulchella)
ユキバヒゴタイ (Saussurea chionophylla)
ウスユキトウヒレン (Saussurea yanagisawae)
ミクラシマトウヒレン (Saussurea mikurasimensis)

これらの種は、それぞれ独自の生態や形態を持っており、日本の高山植物相の多様性を豊かにしています。

(以下、種に関する詳細な記述は省略)

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本III 合弁花類』、1981年、平凡社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 5』、2017年、平凡社

外部リンク

ウィキメディア・コモンズ - トウヒレン属
ウィキスピーシーズ - トウヒレン属

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