トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観

トカイワイン産地の歴史と文化的景観

ハンガリー北東部に位置するトカイ地方は、世界的に有名な貴腐ワインの産地です。その文化的景観はユネスコの世界遺産に登録されており、ブドウ畑、ワイン醸造所、地下貯蔵庫などが一体となって、独自の景観を形成しています。

特徴

トカイワイン産地の特徴は、以下の4点に集約されます。

1. 土壌と微気候：
火山性の粘土質や黄土が広がる土壌は、ブドウ栽培に適しています。
南向き斜面の日照、ティサ川とボドログ川の近接、周辺のオーク林などが独特の微気候を作り出しています。
この微気候が貴腐菌（ボトリティス・シネレア）の繁殖を促し、貴腐ワインの生産に不可欠な要素となっています。

2. ブドウの原産種の多様性：
フルミント、ハールシュレヴェリュー、イエロー・マスカット、Zétaなどの品種が栽培されています。
これらの品種は、トカイ地方での栽培が公認されています。

3. 地下貯蔵庫：
14世紀から16世紀にかけて、岩盤をくり抜いて作られた巨大な貯蔵設備群があります。
地下貯蔵庫内は年間を通じて摂氏10～12度、湿度85～90%に保たれており、カビが生育しやすい環境です。
この環境がトカイワインの熟成に最適な条件を提供しています。

4. 呼称システム：
1757年の王令により、世界初のワイン原産地名称保護制度が導入されました。
1730年にブドウ畑の等級分けが始まり、1765年と1772年の国勢調査で完成しました。

歴史

トカイ地方でのワイン生産の歴史は非常に古く、具体的な起源は不明ですが、12世紀にはすでにブドウ畑が存在していたことが記録に残っています。専門家の間では、ケルト人の時代にブドウ栽培が始まったという説もあります。

ローマ時代にはブドウ栽培が行われていた証拠も発見されており、5世紀後半から6世紀初頭にかけてスラヴ人がこの地域に移住し、ブドウ栽培を引き継いだと考えられています。トカイという地名の語源も、スラヴ語の「合流点」を意味するStokajではないかという説があります。

9世紀末にはマジャール人が移住し、東からブドウ栽培がもたらされた可能性があります。ハンガリー王ベーラ3世とベーラ4世の時代には、ラテン系民族がトカイに移住し、ワイン生産技術を向上させました。

17世紀にはトカイワインが地域経済の重要な柱となり、トランシルバニア地方の領主たちの重要な収入源となりました。1703年にはトランシルバニア領主ラーコーツィ・フェレンツ2世がフランス王ルイ14世にトカイワインを贈呈し、ルイ14世はトカイワインを「王者のワインにしてワインの王者」と称賛しました。

18世紀にはトカイワインは最盛期を迎え、ポーランドやロシアへの輸出が盛んになりました。特にロシアでは、歴代皇帝がトカイワインを確保するために事実上の植民地としていました。

しかし、1795年のポーランド分割や1885年のブドウネアブラムシの被害、そしてトリアノン条約による領土喪失など、幾度かの危機に見舞われました。

共産主義時代にはトカイワインの品質は低下しましたが、1990年代の民主化以降、トカイ地方への大規模な投資が行われ、トカイワインの復興が進みました。現在では600ほどのワイン醸造所が存在し、多様なワインが生産されています。

2004年にはハンガリーとスロヴァキアの間で、スロヴァキア領内における「トカイ」の名称使用に関する合意が成立しましたが、その法的枠組みについてはまだ議論が続いています。

登録名と登録対象

世界遺産としての登録名は、日本語では「トカイワイン産地の歴史的文化的景観」など複数の表記が見られます。

登録対象は、トカイワイン産地と関連する6箇所の貯蔵設備群です。

登録基準

トカイワイン産地の歴史的文化的景観は、以下の2つの登録基準を満たしています。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(5) ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。

トカイ地方のブドウ畑は、何世紀にもわたるワイン造りの歴史と、それを支える独特な環境が組み合わさって、他に類を見ない文化的景観を形成しています。トカイワインは、その品質と歴史的背景から世界的に愛されており、今後もその価値は継承されていくでしょう。

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