トニー・カーティス

トニー・カーティス（Tony Curtis）は、1925年6月3日にバーナード・シュウォーツとしてニューヨーク市ブロンクスで生を受けました。彼の家庭はハンガリーからのユダヤ系移民で、幼少期は貧困の中で育ちました。少年時代には非行に走る時期もありましたが、後に立ち直り、アメリカ海軍に入隊して兵役を務めました。

除隊後、俳優の道を志し、演技を学び始めます。その才能がエージェントの目に留まり、1948年にユニバーサル映画と契約を結びました。俳優としての最初の仕事は、バート・ランカスター主演の映画『裏切りの街角』での端役でしたが、台詞のないダンスシーンにもかかわらず観客からの注目を集め、ファンレターが殺到するという異例のデビューを飾りました。翌年にはジェームズ・ステュアート主演の『ウィンチェスター銃'73』に兵士役で助演し、ここで後に生涯の好敵手とも言われるロック・ハドソンと出会っています。初の主演作は『盗賊王子』でした。

1950年代に入ると、カーティスはその甘いマスクと端正な容姿で二枚目スターとしての地位を確立し、当時のハリウッドで最も稼ぐ俳優の一人として、興行的に成功した作品に数多く出演しました。俳優としての評価も高まり、特にスタンリー・クレイマー監督の『手錠のまゝの脱獄』（1958年）では、共演のシドニー・ポワチエと共に人種差別という重いテーマに挑む演技を見せ、アカデミー主演男優賞にノミネートされるというキャリアの頂点を迎えます。

彼はバート・ランカスターとは『空中ぶらんこ』や『成功の甘き香り』で、カーク・ダグラスとは『ヴァイキング』や『スパルタカス』といった歴史大作や骨太な人間ドラマで共演し、シリアスな役柄でも存在感を示しました。しかし、彼の真骨頂とも言えるのはコメディ演技でした。ケーリー・グラントが初めて自主製作した『ペティコート作戦』での副艦長役でコメディ俳優としての才能を開花させると、ビリー・ワイルダー監督の傑作『お熱いのがお好き』（1959年）ではジャック・レモンと共に女装するミュージシャンを演じ、そのコミカルな演技とキュートな魅力で絶大な人気を博しました。さらに『グレート・レース』でもレモンとW主演を務め、ヘンリー・フォンダと共演したコメディ『結婚専科』など、数々のコメディ映画で観客を楽しませました。

一方で、シリアスな役柄への挑戦も続け、『絞殺魔』（1968年）では実在の連続殺人犯を演じ、俳優としての幅広さを見せつけました。また、『モンテカルロ・ラリー』のような国際的なオールスターキャスト作品や、『暗黒街の顔役』、『マリリンとアインシュタイン』など、多岐にわたるジャンルの映画に出演しました。テレビの世界でも活躍し、特にテレビシリーズ『ダンディ2 華麗な冒険』では、ロジャー・ムーアとの息の合ったコンビネーションが人気を呼びました。

日本との意外な接点もあり、1978年の日本映画『がんばれ!ベアーズ大旋風 -日本遠征-』に出演するため来日しています。この映画では、マスクをかぶって日本のプロレスラー、アントニオ猪木と対戦するシーンもありました（この場面でのマスクマンがカーティス本人かどうかは不明とされていますが、アルゼンチン・バックブリーカーは本人が受けたようです）。

私生活では5回の結婚を経験しており、特に初期の妻である女優ジャネット・リーとの間には、後に女優となる娘ジェイミー・リー・カーティスが生まれています。

俳優業に加え、晩年は画家としても積極的に活動し、その絵画は高い評価を受けるようになりました。2005年にはクエンティン・タランティーノが監督した『CSI:科学捜査班5』のシーズン最終話に特別出演。2006年には肺炎で一時は危篤状態に陥るも回復し、2008年には映画『デイヴィッド・アンド・ファティマ』で俳優として復帰を遂げ、また自伝『American Prince: A Memoir』も出版しました。2009年には、著書の中で『お熱いのがお好き』で共演したマリリン・モンローとの過去の関係について語り、話題となりました。

2010年9月29日、ネバダ州ラスベガスの自宅で心不全のため、85歳で波乱に満ちた生涯を閉じました。彼の遺志により、約4400万ドルに上る遺産は、最期を看取った妻ジルに全て遺されることとなりました。

主な受賞歴としては、『手錠のまゝの脱獄』でのアカデミー主演男優賞ノミネートのほか、ゴールデングローブ賞のヘンリエッタ賞（世界の人気者）を二度受賞しています。

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