トマス・ハワード (初代サフォーク伯)

初代サフォーク伯トマス・ハワードの生涯

初代サフォーク伯トマス・ハワード（1561年8月24日 - 1626年5月28日）は、イングランドの貴族であり、政治家として活躍しました。彼は、ステュアート朝初代国王ジェームズ1世の治世において、1614年から1618年にかけて大蔵卿を務めましたが、その背景には複雑な宗教的、政治的な対立が存在していました。

生い立ちと初期のキャリア

トマス・ハワードは、第4代ノーフォーク公トマス・ハワードの次男として生まれました。母は、初代オードリー男爵トマス・オードリーの娘であるマーガレットです。彼はケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで学び、1588年のアルマダの海戦では、海軍卿を務める親族のチャールズ・ハワードによってナイトに叙されました。その後も、1596年のアゾレス諸島遠征や1597年のカディス攻撃など、数々の海戦で艦隊司令官の一人として活躍し、その功績から1597年にはガーター騎士団ナイトに叙されています。また、同年12月にはハワード・ド・ウォルデン男爵として貴族院に召集され、政治家としてのキャリアもスタートさせました。

ジェームズ1世の治世と大蔵卿への就任

ジェームズ1世が即位し、ステュアート朝が始まると、トマス・ハワードは1603年5月に枢密顧問官に任命され、宮内長官にも任じられました。同年7月にはサフォーク伯に叙され、1605年にはサフォーク総督とケンブリッジシャー総督、1611年にはドーセット総督に就任するなど、要職を歴任しました。

大蔵卿初代ソールズベリー伯ロバート・セシルの死後、ジェームズ1世は大蔵卿のポストを委員会制にし、サフォーク伯の叔父である初代ノーサンプトン伯ヘンリー・ハワードが財政を主導するようになります。サフォーク伯も1612年6月に大蔵委員会の委員に任命され、1614年7月には大蔵卿に就任しました。

大蔵卿としての失脚

しかし、大蔵卿としての彼の任期は長くは続きませんでした。当時のイングランドの財政は危機的な状況にあり、議会との対立も深まっていました。1614年に議会が再招集された際、政府は議会懐柔に努めましたが、国王秘書長官ラルフ・ウィンウッドの議会対策の不慣れや、宮廷内の派閥争いによって失敗に終わります。

特に、カトリックであるサフォーク伯は、プロテスタント強硬派との対立が激化しました。プロテスタント強硬派は、サフォーク伯がスペインとの関係を深めることで、財政援助を得ようとしているのではないかと警戒し、ジェームズ1世からサフォーク伯を引き離すために、ジョージ・ヴィリアーズ（後の初代バッキンガム公）を国王の側近に取り立て、その昇進を後援しました。

ヴィリアーズは巧みな策略によって、1618年にサフォーク伯に汚職の嫌疑をかけ、失脚に追い込みました。サフォーク伯は、公金横領と商人への恐喝の罪で星室庁裁判所にかけられ、罰金刑を受けました。この裁判で彼を裁いた大法官フランシス・ベーコンを恨み、1621年の議会でベーコンの収賄罪追及に加わっています。

死と遺産

サフォーク伯は、1626年5月28日に亡くなりました。彼は、母から相続したオードリー・エンド荘園を基に、叔父の指揮のもとで、名高いオードリー・エンド・ハウスを建築しました。この屋敷は一時王室に売却されましたが、1701年にサフォーク伯爵家の所有に戻っています。

家族

サフォーク伯は、1577年にメアリー・デイカーと最初の結婚をしましたが、彼女は翌年に亡くなりました。その後、1583年にキャサリン・ナイヴェットと再婚し、彼女との間に7人の息子と3人の娘をもうけました。その中には、サフォーク伯爵位を継承したセオフィラスや、初代バークシャー伯爵に叙されたトマス、エスクリックのハワード男爵に叙されたエドワードなどがいます。また、娘たちは、それぞれ有力な貴族と結婚しており、その一人が第2代ソールズベリー伯爵ウィリアム・セシルと結婚したキャサリン、第3代エセックス伯ロバート・デヴァルーや初代サマセット伯ロバート・カーと結婚したフランセスです。

栄典

1597年12月5日：初代ハワード・ド・ウォルデン男爵（イングランド貴族爵位）
1603年7月21日：初代サフォーク伯（イングランド貴族）
* 1597年4月23日：ガーター勲章勲章士（KG）

初代サフォーク伯トマス・ハワードは、その波乱に満ちた生涯を通じて、当時のイングランド社会における宗教、政治、そして貴族の役割を象徴する人物と言えるでしょう。

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