トムテ

トムテ：北欧の守護妖精とクリスマスの贈り物

北欧神話に登場するトムテは、農家の守護神として知られる妖精です。スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなど北欧諸国で古くから伝わる民間伝承の中に登場し、人々の生活に深く関わってきました。本稿では、トムテの外見や性格、クリスマスにおける役割、そして歴史的変遷を通して、その魅力に迫ります。

トムテの姿と性格：農家の守り神

トムテは、小さな子どものほどの身長で、赤い帽子をかぶった姿で描かれることが多いです。垂れ下がった灰色のあごひげ、4本の指、尖った耳が特徴とされ、暗闇では目から光を放つとも伝えられています。古ぼけた灰色や濃紺の服を着ているのが一般的です。

彼らは農家の食糧貯蔵庫や納屋に住みつき、農家の人々の幸福を願ってひそかに働きます。特に家畜、中でも馬の世話を熱心にこなし、勤勉で働き者な性格です。しかし、干渉されることを嫌うため、静かに見守ることが重要です。清潔で古風な農家にはトムテが宿ると言われています。

トムテの語源は「農場の男」を意味するスカンディナビア語で、農場や農家を象徴する言葉に由来します。その小さな体からは想像もできないほどの力強さで、どんな仕事もこなします。古くはもっと小さく繊細で気性が激しかったとされますが、基本的には優しく温厚な性格で、農家の人々にとってはなくてはならない存在でした。

しかし、トムテを当然のこととして扱ったり、大切にしないと怒りを買ってしまいます。怒ったトムテは、干し草を盗んで家を出て行ったり、仕返しとして人間の耳を殴ったりするなど、様々ないたずらをすると言われています。家畜を粗末に扱う農家にも容赦なく、青あざができるまで殴ることもあるとか。ご褒美を与えないと、仕事をしなくなる気難しい一面も持ち合わせています。

ユールとトムテ：クリスマスの伝統

クリスマスイブには、トムテに感謝の気持ちを表すため、食事の後に食べ物を残しておく習慣がありました。この習慣を怠ると不幸が訪れると信じられていました。ご馳走を振る舞われたトムテは、その家や農場に豊かさをもたらしますが、そうでなかった場合は、隣の家から食べ物を盗むという言い伝えもあります。

現代ではトムテは子どもたちにプレゼントを贈る存在ですが、キリスト教化以前は、むしろトムテが人々から贈り物、具体的にはバターを落としたミルク粥（ユールグロット）を受けていました。これは、トムテの仕事への報酬として感謝の気持ちを表すものでした。この粥を納屋に置いたり、戸口の上り段や戸外に置いてトムテを招き入れました。粥を食べられなかったトムテは、その農家を捨て、物を壊したり家畜を悩ませたりするなどのいたずらをすると言われています。

サンタクロースとしてのトムテ：現代の解釈

スウェーデンでは、サンタクロースは「ユールトムテ」として知られています。本来、サンタクロースのモデルは聖ニコラウスであり、北欧の妖精であるトムテとは関係ありませんでした。しかし、スウェーデンがキリスト教化された後、土着の伝統とキリスト教の教えが融合し、冬至の祭であったユールがクリスマスへと変化していきました。

キリスト教化された初期においては、トムテは悪魔と同一視され、闇の世界との関わりを持つ存在として忌み嫌われました。富を得た農家は、トムテが他の農家から物を盗んで富をもたらしていると信じられていたほどです。

しかし、20世紀に入ると、アメリカの商業主義的なクリスマス文化の影響を受け、トムテはサンタクロースのような存在として再評価されました。ユールトムテは、トナカイやヤギの引くソリに乗って、子どもたちにプレゼントを届けるようになりました。

トムテ：時代を超えて愛される妖精

優しさと思いやりを持ちながらも、気難しい一面を持つトムテは、時代によって悪魔とみなされたり、サンタクロースのような存在として崇められたりしてきました。多くの神々や妖精が歴史の彼方に消えていった中、トムテは北欧の人々の記憶の中に生き続け、現在でもユールを代表する妖精として愛されています。その存在は、北欧の豊かな文化と歴史を象徴するものです。

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