トランジスタラジオ (曲)

トランジスタ・ラジオ

「トランジスタ・ラジオ」は、日本のロックバンド、RCサクセションが1980年10月28日にキティ・レコードからリリースした11枚目のシングルであり、彼らの代表的な楽曲の一つです。この曲は、作詞・作曲を忌野清志郎とG.1,238,471が手掛けました。音楽的には嬰ハ長調（Cシャープメジャー）というキーが採用されており、これは清志郎が作曲した楽曲の中で唯一この調性の曲として知られています。制作段階では「C#の世界」という仮称で呼ばれていたことも、その独特な響きを示唆しています。

シングルのカップリング曲には「たとえばこんなラヴソング」が収録されました。こちらも作詞・作曲は忌野清志郎と小林和生、編曲は両曲ともにRCサクセション自身が行っています。

カバーバージョン

「トランジスタ・ラジオ」は、RCサクセションのオリジナル版だけでなく、複数のアーティストによってカバーされています。

山崎まさよし版

シンガーソングライターの山崎まさよしは、メジャーデビュー前の1992年11月21日に、キティエンタープライズからこの曲を自身のシングルとして発表しました。彼のバージョンは表題曲として「トランジスタ・ラジオ」が採用され、カップリングには上田正樹の楽曲「悲しい日々」（作詞・作曲：金森幸介）のカバーが収められています。このシングルは、彼がプロとして本格的に活動を開始する前に制作されたため、市場に出回った数が少なく、現在ではファンやコレクターの間で高値で取引される希少なアイテムとなっています。

子門'z版（電気グルーヴ）

日本のテクノユニットである電気グルーヴは、1993年8月1日にキューン・ソニーから「子門'z」という名義で「トランジスタ・ラジオ」をカバーしたシングルをリリースしました。この企画は、歌手・子門真人の独特な歌唱法を模倣する「シモニック唱法」でカバーすることを前提とした、遊び心あふれるものでした。電気グルーヴの企画レーベル「ドリルキング」シリーズの第2弾にあたります。

子門'zは、電気グルーヴのメンバーである石野卓球、ピエール瀧、砂原良徳とは異なる架空の三人組という設定でした。彼らはナガシマシGEO、チョノフG、ライーDEANと名乗り、子門真人にそっくりという触れ込みでありながら、なぜか越路吹雪をリスペクトしているという、さらに捻りの効いたキャラクター付けがされていました。

この子門'zとして、彼らはニッポン放送開局40周年記念イベント「ザ･ライブマシーン'93」に出演し、東京ドームという大舞台でライブを披露しています。その際のバンド編成は、チョノフがギター、ナガシマシがトロンボーン、ライーがティンパニーという、彼らが本来演奏できない楽器をあえて担当するというものでした。ライブでは、寺尾聰の「ルビーの指環」やゴダイゴの「Monkey Magic」などを適当に演奏するというパフォーマンスを見せました。また、ドリルキングレーベルの企画に倣い、子門'zもピエール瀧による瀧勝と同様に、予定された日時に死亡したという設定になっており、その死因は溺死とされていました。

シングルの選曲については、制作準備段階で電気グルーヴのオールナイトニッポン番組内で、西城秀樹の「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」や、ダークダックスの「バラが咲いた」、イモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」など、複数の楽曲がカバー候補としてテストされましたが、最終的にRCサクセションの「トランジスタ・ラジオ」に決定しました。

このシングルの収録曲は、「トランジスタ・ラジオ」（ノーマル歌唱）、それに続く「トランジスタ・ラジオ (Touched by the hands of 子門'z Mix)」、「トランジスタ・ラジオ (オリジナル・カラオケ)」の3トラック構成です。特に「Touched by the hands of 子門'z Mix」は、この子門'z企画の「本意」を示すトラックであり、そのサブタイトルはニュー・オーダーの楽曲「Touched by the hands of god」からの引用です。しかし、企画色が強すぎるこれだけではいけないと考え、当時の電気グルーヴが得意としていた王道のテクノ歌謡ポップスとして、ノーマルに歌われた1曲目も併せて収録されることになりました。

1曲目のバックトラックについて、石野卓球は「居酒屋で有線から流れる様子を想定して作った」と語っています。当初は砂原良徳が一人で制作する予定でしたが、砂原が風邪で体調を崩したため、途中まで完成していたデータを石野が引き継いで完成させたという経緯があります。そのため、砂原が制作したと思われるパートと石野が重ねたと思われるパートがはっきり聞き分けられるトラックとなっています。また、オリジナルミックスとカラオケバージョンで曲の尺がわずかに異なる点は意図的なもので、イエロー・マジック・オーケストラ（YMO）の「テクノポリス」がシングルバージョンとアルバムバージョン（『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録）でフェイドアウトの尺が異なることへのオマージュだとされています。

シングルのジャケットは白一色という極めてシンプルながらインパクトのあるデザインです。後の『電気グルーヴのドリルキングアワー』において、このデザインが「適当でいいや」という投げやりな意向で決定されたと語られています。CDには子門真人風に装ったメンバーの写真がデザインされたステッカーが封入されていました。

ちなみに、この子門'z版のCDは、RCサクセションの忌野清志郎本人に直接プレゼントされたということです。

このように、「トランジスタ・ラジオ」はRCサクセションのオリジナル曲として誕生した後、山崎まさよしや電気グルーヴ（子門'z名義）といった多様なアーティストによって独自の解釈でカバーされ、それぞれの時代やアーティストの色を加えながら、日本の音楽史の中で語り継がれる楽曲となっています。

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