トランスジェンダーになりたい少女たち

『トランスジェンダーになりたい少女たち』：社会現象と論争の渦中にある一冊

アビゲイル・シュライアー著『トランスジェンダーになりたい少女たち　SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』は、近年増加傾向にある、思春期になってからトランスジェンダーだと認識する少女たちの現象をテーマにした書籍です。2020年にアメリカで出版され、その後、日本でも翻訳・刊行されましたが、その過程で大きな議論を巻き起こしました。本書は、この現象を「急速発症性性別違和（ROGD）」という概念と関連付けて論じており、ソーシャルメディアの影響や、性肯定的ケア（ジェンダー肯定的ケア）のあり方について批判的な視点を提示しています。

本書の内容：社会現象の分析と批判的視点

本書では、2010年代以降、特に出生時に女性とされた少女たちの間で、トランスジェンダーだと認識する人が急増した現象に注目しています。シュライアーは、この急増を、ソーシャルメディア上での「社会的伝染」や、性肯定的ケアを推進する風潮に起因すると主張します。

具体的には、TikTokやInstagramなどのプラットフォームで活動するトランスジェンダーのインフルエンサーたちが、若者たちにトランスジェンダーであると自認させる影響を与えていると指摘。また、学校教育におけるジェンダーに関する包括的な教育や、性肯定的ケアを提供する医療機関についても批判的な立場を取っています。

さらに、本書では、性同一性障害の治療として行われる、二次性徴抑制剤やホルモン補充療法、性別適合手術といった医療介入のリスクについても言及。これらの医療介入に後悔する若い女性たちの体験談を紹介し、性肯定的ケアに対する慎重な姿勢を促しています。

一方で、本書は、ケネス・ザッカーやレイ・ブランチャードといった、性肯定的ケアに批判的な専門家の意見も紹介。これらの専門家たちは、性同一性障害の診断や治療において、生物学的性と社会的な性の関係性、精神疾患との関連性などを考慮すべきだと主張しています。

シュライアーは、性同一性障害の増加とレズビアンの減少が一致している可能性にも触れ、トランスジェンダーの増加現象の背後にある複雑な社会問題を浮き彫りにしています。また、トランスジェンダー女性アスリートの女子スポーツ参加問題や、トランスジェンダーの可視性とプライバシーのバランスなど、社会的な課題についても議論を展開しています。

最後に、子どもたちが「社会的伝染」の影響を受けないようにするための親向けのアドバイスとして、「スマホを持たせない」「親の権威を保つ」「ジェンダー・イデオロギー教育に反対する」「インターネットの利用を制限する」「田舎での生活」「出産能力の祝福」などを提案しています。

出版の経緯と反響：賛否両論の嵐

本書は、保守的な出版社であるレグナリー・パブリッシング社から出版されました。この出版社は、保守的な立場からの主張を積極的に出版することで知られています。そのため、本書も、出版当初から、トランスジェンダー権利擁護団体などから激しい批判を受けました。

本書に対する批判は、主に以下の点を指摘しています。

科学的根拠の不足：ROGDという概念は、主要な医学機関によって認められておらず、科学的な根拠が乏しいと批判されています。
トランスフォビア：トランスジェンダーの人々に対する偏見や差別を助長する内容であると批判されています。
方法論的問題：逸話的な証言に偏っており、統計データや科学的な研究に基づいていないと批判されています。
ミスジェンダリング：出生時に女性とされたトランスジェンダーの男性を「彼女」と呼んでおり、性自認を軽視していると批判されています。

一方、本書を支持する声は、主に保守派やリベラルに批判的な人々から出ています。彼らは、本書が、社会問題としてのトランスジェンダー問題を提起し、性肯定的ケアのあり方について改めて考える契機を与えたと評価しています。

日本における出版と論争：発売中止と再刊行

日本では、当初KADOKAWAから『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』というタイトルで出版される予定でしたが、タイトルや内容紹介がトランスジェンダー差別を助長すると批判されたため、発売中止となりました。その後、産経新聞出版から『トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇』というタイトルで出版されましたが、これも出版中止を求める脅迫などを受けました。

日本でも、本書は、トランスジェンダー問題や性肯定的ケアをめぐる議論を再燃させ、社会的な関心を集めました。その過程では、表現の自由と差別との間のバランス、出版業界における検閲問題、そして、SNSにおける情報拡散のあり方などが問われました。

まとめ：多角的な視点からの考察が必要

『トランスジェンダーになりたい少女たち』は、トランスジェンダー問題をめぐる複雑な社会現象を浮き彫りにした一冊です。本書の内容については、多くの批判や反論が寄せられており、その内容を鵜呑みにするのではなく、複数の視点から客観的に検証することが重要です。本書が提起した問題をきっかけに、トランスジェンダーの人々の権利擁護、医療現場における倫理的問題、そしてソーシャルメディアの影響などについて、多角的な議論を深めることが求められています。

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