トラート県

トラート県

タイ王国東端に位置するトラート県（タイ語: จังหวัดตราด）は、独特の地理と豊かな歴史を持つ県です。西側はチャンタブリー県と隣接し、南部はタイランド湾の美しい海岸線に面しています。さらに、県の東側から北東にかけては、広範囲にわたりカンボジア王国との国境を形成しています。この国境線は、パイリン州、バタンバン州、ポーサット州、そしてココン州といったカンボジアの複数の州と接しています。

地理的特徴

トラート県の地理は、多様な景観が魅力です。特に県の東部では、起伏の多い山脈と入り組んだ海岸線が互いに近接しており、特徴的な地形を生み出しています。これらの山脈の一部は自然の障壁となり、そのままカンボジアとの国境線となっています。その結果、タイの領土がまるで細長い帯のように国境に沿って続くという、視覚的にも興味深い光景が見られます。

海域に目を向けると、トラート県はタイランド湾に点在する多くの島々を管轄しており、中でもチャーン島は特筆すべき存在です。この島はタイ国内において、南部のプーケット島に次ぐ二番目の大きさを誇ります。チャーン島とその周辺に広がる大小の島々は、豊かな海洋生物や美しいサンゴ礁、手つかずの自然が残されており、チャーン諸島海洋公園として国立公園に指定されています。この指定により、貴重な自然環境の保護が進められています。また、トラート県は、隣接するチャンタブリー県と同様に、古くから宝石の産地として知られています。この地域の地質は、宝石の生成に適しており、その採掘や取引は地域の経済活動において重要な要素となっています。

歴史的背景

トラート県の歴史は、近現代におけるタイ王国の領土保全の歩みと密接に関わっています。1893年にシャム（当時のタイ王国）で発生したパークナム事件を契機として、この地域は一時的にフランスの勢力下に入り、仏領インドシナの一部として占領されるという経験をしました。しかし、タイ王国政府は領土回復のためにフランスとの交渉を続け、その結果、1905年にはカンボジア領の一部をフランスに割譲することと引き換えに、トラート県を含む地域がタイ王国へ返還されることが合意されました。この歴史的な返還は、1905年3月23日に正式に行われました。これはタイが列強の植民地化の波の中で独立を維持するために行った苦渋の決断の一つであり、トラート県はその歴史の証人とも言えます。

より近代の出来事としては、21世紀初頭の状況が挙げられます。この時期、カンボジアとの国境付近に多数のカジノ施設が出現し、主にギャンブルを目的とするタイからの訪問客が賑わいを見せました。これは国境地帯の経済や人々の流れに影響を与えました。

行政区画

トラート県は、タイの他の県と同様に階層的な行政区画に分かれています。県全体はまず、7つの主要な郡（アムプー）に分割されています。これらの郡はさらに、下位組織として38の町（タムボン）に細分化されています。そして、最も基礎的なコミュニティ単位として、合計261の村（ムーバーバーン）が存在し、それぞれの地域住民の生活を支えています。

トラート県は、その戦略的な国境の位置、多様な自然環境、そして波乱に富んだ歴史が組み合わさることで、タイ東部における重要な地域の一つとなっています。

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