トリカマルムの戦い

トリカマルムの戦い：ヴァンダル王国の終焉とベリサリウスの栄光

533年、北アフリカの地で、東ローマ帝国とヴァンダル王国による激しい戦いが繰り広げられました。その舞台となったのは、カルタゴ西方約30キロメートルに位置するトリカマルムです。この戦いは、ヴァンダル戦争における重要な転換点であり、東ローマ帝国による北アフリカ支配の確立に大きく貢献しました。

アド・デキムムの戦い（533年9月）で東ローマ軍に大敗を喫したヴァンダル王ゲリメルは、ヌミディア地方に退却。カルタゴを失った彼は、サルディニア島からの帰還を果たした兄ザノンと合流、ヴァンダル人とムーア人の残兵を集めて反撃の機会を伺います。ゲリメルはカルタゴへと進軍を開始しますが、ベリサリウス率いる東ローマ軍は容易に迎撃せず、状況を探ります。東ローマ軍のフン族部隊の買収を試みましたが、彼らは何らかの見返りがあり得ないかぎり中立を保ちました。しかし、ベリサリウスの追撃が始まり、メジェルダ川沿いのトリカマルムで両軍は対峙することになります。

戦いは、アド・デキムムの戦い同様に、騎兵同士による激戦となりました。ゲリメルは、自軍の兵士に剣のみを使用するよう命じていました。東ローマ軍の先鋒騎兵隊が川を渡り、ヴァンダル軍をおびき寄せます。ザノン率いるヴァンダル軍中央部隊が応戦しますが、すぐに後退。この攻防が三度繰り返された後、ベリサリウスは親衛隊を投入し、白兵戦へと突入します。

激戦の末、ヴァンダル軍は敗走。ザノンを始めとする多くの勇士が戦死し、ゲリメル自身も僅かな供と共に戦場から逃亡しました。東ローマ軍の勝利を確信したフン族部隊も追撃に加わり、ヴァンダル兵を多く殺害します。ヴァンダル軍の陣営に残された家族や財産は、東ローマ軍の戦利品となりました。この戦いで、東ローマ軍は約50名、ヴァンダル軍は約800名の損害を出したと伝えられています。

夜になり、ベリサリウスは規律の緩んだ兵士たちの隙を突いてヴァンダル軍が反撃してくるのではないかと懸念しましたが、それは杞憂に終わります。ゲリメル率いるヴァンダル王国は完全に崩壊しており、反撃の意思も能力もありませんでした。ベリサリウスは、逃げ延びた兵士たちを寛大に扱い、翌春コンスタンティノープルへ送ることを約束することで降伏を受け入れました。そして、実際には僅かな地域しか占領していなかったにも関わらず、ヴァンダル王国全土に対する東ローマ帝国の支配を宣言します。マウレタニアを含むアフリカ全域の完全な平定は、ベリサリウスの後任の将軍たちに託されました。

逃亡したゲリメルは、パプア山地のメデウスに潜伏しましたが、やがて降伏しました。しかし、ベリサリウスの輝かしい勝利は、彼の部下の将軍たちの嫉妬を招きます。彼らはユスティニアヌス1世帝に、ベリサリウスが王位を目論んでいると讒訴しました。帝はベリサリウスにアフリカ残留か帰還かを選択させ、ベリサリウスは帰国を選びます（534年）。彼は首都で凱旋式を挙げるという栄誉に浴しました。

トリカマルムの戦い、そしてその前のアド・デキムムの戦いの勝利、そして戦争の早期終結は、ベリサリウスの卓越した軍事才能のみならず、ゲリメルの無能さ、そして東ローマ軍の数的優位性、兵士たちの統制の難しさなども含めた複数の要因が絡み合った結果であると考えられています。ベリサリウスの最大の課題は、野放図な兵士たちを統率することであり、彼の部下であるフン族部隊ですら完全に信頼できる存在ではなかったのです。歴史家プロコピウスは、この戦争の驚くべき結果について記しており、それは優れた戦略というよりも運命の皮肉な成り行きによるものだったと述べています。

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