ヴァンダル戦争

ヴァンダル戦争：東ローマ帝国による北アフリカ奪還とその後

533年から534年にかけて、現在のチュニジアとアルジェリア東部にあたる北アフリカを舞台に、東ローマ帝国とヴァンダル王国との間で激戦が繰り広げられました。この戦争は、ユスティニアヌス1世による西方再征服の第一段階であり、東ローマ帝国にとって決定的な勝利をもたらすことになります。

戦争の背景：ヴァンダル王国の台頭と地中海制覇

5世紀、西ローマ帝国が衰退していく中、ヴァンダル族はライン川を渡りガリアへと進出し、その後イベリア半島にまで勢力を拡大しました。429年、ヴァンダル王ガイセリックは、西ローマ帝国のアフリカ総督ボニファティウスの招きを受け、北アフリカに侵攻。弱体化したローマ軍を圧倒し、439年にはカルタゴを占領しました。その後20年間で、ガイセリックは強力な海軍力を背景に、アフリカだけでなくシチリア、サルデーニャ、コルシカ、バレアレス諸島をも支配下に置きました。

ヴァンダル海軍は地中海を席巻し、455年にはローマを略奪するなど、その勢威を振るいました。468年には東ローマ帝国の艦隊を撃破するなど、東ローマ帝国にとって脅威となりました。さらに、ヴァンダル族は熱烈なアリウス派キリスト教徒であり、カトリックを迫害したことも、東ローマ帝国との関係悪化の一因となりました。しかし、当時ローマはヴァンダル王国に軍事行動を起こすだけの力は持たず、両者は不安定ながらも「永続的な平和」を保っていました。

ユスティニアヌス1世の西方再征服と戦争の勃発

状況が変化したのは、西方領土回復を願うユスティニアヌス1世が東ローマ皇帝に即位した時です。当初、ユスティニアヌス帝はペルシアとの戦争に忙殺されていましたが、ヴァンダル王国では親ローマ派のヒルデリック王が即位し、東ローマ帝国との友好関係を築きつつありました。しかし、ヒルデリックの政策はヴァンダル族内部からの反発を招き、530年にクーデターによりゲリメルによって廃位されます。ユスティニアヌス帝はヒルデリックの復位を要求しましたが拒絶され、ゲリメルへの懲罰遠征を決意します。

両軍の戦力比較と東ローマ軍の進軍

ユスティニアヌス帝は、ベリサリウス将軍を遠征軍司令官に任命しました。ベリサリウス軍は、ローマ人歩兵1万人、同盟部族騎兵5000、ベリサリウスの私兵3000、そしてフン族やヘルール族の騎兵1000からなる約1万5000の精鋭部隊でした。一方、ヴァンダル王国は約5万の兵力を擁し、動員時には16万人にも達するといわれています。しかし、ヴァンダル王国はトリポリタニアやサルデーニャでの反乱に苦慮していました。

東ローマ艦隊はシチリアを経由し、9月9日にアフリカ沿岸に上陸しました。ベリサリウスはカルタゴを目指し、住民との摩擦を避けるため、厳格な軍規を維持しながら進軍しました。

アド・デキムムの戦い

ゲリメルはカルタゴ南方で東ローマ軍を待ち伏せ、包囲殲滅作戦を計画しました。しかし、ヴァンダル軍の作戦はうまくいかず、9月13日の戦闘でアマタス王弟が戦死、ギバモンドスの部隊も壊滅します。ゲリメルは東ローマ軍を撃退しますが、弟の死を知り、戦闘を中断します。ベリサリウスはこの機会を捉え、再編した兵でヴァンダル軍を打ち破ります。

トリカマルムの戦い、ゲリメルの降伏、そして戦後

敗北したゲリメルはカルタゴからヌミディアへ逃亡。ベリサリウスはカルタゴに入城し、略奪を許さず、秩序を維持しました。しかし、ゲリメルは反撃を試み、カルタゴを包囲します。12月中旬、トリカマルムで再び戦闘が起こり、東ローマ軍が勝利します。ゲリメルはムーア人の助けを借りて抵抗を続けましたが、534年3月に降伏しました。

ヴァンダル戦争は東ローマ帝国の予想を上回る迅速かつ完全な勝利で幕を閉じました。ベリサリウスは凱旋式を行い、ゲリメルは所領を与えられて引退しました。ヴァンダル王国は滅亡し、北アフリカは再び東ローマ帝国の支配下に置かれました。しかし、北アフリカの安定は長くは続かず、ムーア人やベルベル人の反乱、そして後にイスラム勢力の拡大により、東ローマ帝国の支配は徐々に衰退していきました。

戦争の影響とその後

ヴァンダル戦争の勝利は、ユスティニアヌス1世の西方再征服政策を加速させました。535年には東ゴート王国との戦争が始まりました。東ローマ帝国は東ゴート王国を滅ぼすものの国力を消耗し、その後イタリア半島の大部分をランゴバルド族に奪われることになります。一方、北アフリカでは東ローマ帝国の支配が再建されましたが、ムーア人やベルベル人の反乱に悩まされ続け、7世紀中頃にはイスラム勢力に征服され、カルタゴは破壊されました。ヴァンダル戦争は、東ローマ帝国の栄光と衰退の両面を象徴する出来事だったと言えるでしょう。

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