アド・デキムムの戦い

アド・デキムムの戦い：ヴァンダル王国滅亡への序章

533年9月13日、北アフリカの地で東ローマ帝国とヴァンダル王国は激突しました。このアド・デキムムの戦いは、ヴァンダル戦争における重要な転換点となり、後にヴァンダル王国の滅亡へと繋がる大きな一歩となりました。

戦いの背景：野心と失われた武風

530年、ヴァンダル王ヒルデリックがゲリメルによって廃位されたことが、この戦争の引き金となりました。親ローマ派であったヒルデリックの廃位に、東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世は激しく反発。ヒルデリックの復位を要求するも、ゲリメルはこれを拒否しました。ユスティニアヌスは、ローマ帝国再興の野望を抱き、この機会をヴァンダル王国征服の口実と捉えたのです。

しかし、ユスティニアヌスの計画には反対意見も存在しました。過去のヴァンダル討伐の失敗が記憶に新しい中、多くの家臣が遠征に反対しました。それでもユスティニアヌスは、ベリサリウスを総司令官とする遠征軍の派遣を決意します。

この遠征軍は、総勢16000名という少数精鋭でした。ヴァンダル軍は約30000名と数で勝っていましたが、ローマの贅沢な生活に染まった彼らは、かつての武勇を失っていたのです。騎兵主体のヴァンダル軍は、装備も訓練も不足しており、ゲリメル王自身も優れた指導者とはいえませんでした。更に、トリポリとサルディニアがヴァンダル王国から離反したことで、東ローマ軍のアフリカ上陸は容易なものとなりました。

戦いの展開：誤算と勝利

ベリサリウス率いる東ローマ軍は、カプトウァダに上陸。略奪を禁じることで民衆の支持を得ながら、首都カルタゴを目指して進軍しました。一方、ゲリメルはカルタゴ南方で東ローマ軍を待ち伏せしていました。

ゲリメルは、巧妙な包囲作戦を計画していました。しかし、この作戦は各部隊の連携不足により失敗に終わります。先鋒として突撃したアマタスは戦死し、その部隊は敗走。左翼を担ったギバムンドも敗北を喫しました。ゲリメル自身も道に迷い、戦況を把握できずにいました。

ようやく戦場に到着したゲリメルは、一時的に優勢に立ちますが、弟の死を悼んで葬儀を行った隙に、ベリサリウスは反撃を開始。ゲリメルは敗走し、アド・デキムムの戦いは東ローマ軍の勝利に終わりました。

戦い後の状況と影響

アド・デキムムの戦いの勝利により、ベリサリウスはカルタゴを容易に制圧しました。しかし、警戒を怠らず、その晩は城外で野営。9月15日にカルタゴに入城し、城壁の修復に着手しました。この勝利は、ヴァンダル王国の終焉を告げる大きな一歩となりました。アド・デキムムの戦いは、軍事力だけでなく、政治的・外交的要因も絡み合った複雑な戦いであり、東ローマ帝国の再興を象徴する出来事だったと言えるでしょう。

参考文献

エドワード・ギボン著、朱牟田夏雄・中野好之訳、『ローマ帝国衰亡史6 ユスティニアヌスとビザンティン帝国』、筑摩書房、1996年
松谷健二、『ヴァンダル興亡史―地中海制覇の夢』、中央公論新社、2007年
* John Bagnall Bury, History of the Later Roman Empire , 1923

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