トリック・オブ・ザ・テイル

『トリック・オブ・ザ・テイル』

イギリスのプログレッシブ・ロック・バンド、ジェネシスが1976年に発表した通算7作目のスタジオアルバムが『トリック・オブ・ザ・テイル』です。この作品は、長年フロントマンを務めたピーター・ガブリエル脱退後、残されたフィル・コリンズ、スティーヴ・ハケット、マイク・ラザフォード、トニー・バンクスの4人のメンバーで初めて制作されたアルバムであり、バンドの新たな時代を告げる重要な位置を占めています。

制作の背景とメンバーの役割変化

カリスマ的フロントマンであったガブリエルの脱退を受け、バンド内部では解散や、ボーカルを置かずにインストゥルメンタル・グループとして活動を継続するといった選択肢も検討され、大きな危機感が漂いました。しかし、デモ制作の過程で、ドラマーのフィル・コリンズが試しに「スコンク」という楽曲でリードボーカルを担当したことが転機となります。彼のボーカル・パフォーマンスが高く評価されたことで、他の楽曲でも彼が歌うことになり、コリンズは新生ジェネシスのボーカリストとなったのです。

このアルバムに伴うライブツアーでは、コリンズがリードボーカルに専念するため、サポートドラマーとしてビル・ブルーフォードが参加しました。彼はイエスやキング・クリムゾンといった名バンドでの活動で知られる名手です。

アルバムのサウンド面では、それまでエルトン・ジョンの諸作品でエンジニアやキーボード奏者として手腕を発揮していたデヴィッド・ヘンツェルをプロデューサー兼エンジニアに迎えて形作られました。ヘンツェルは本作以降、1980年のアルバム『デューク』まで、バンドとの共同プロデュースを務め、ジェネシスのサウンド構築に深く関わることになります。ジャケット・デザインは、コリン・エルジーと、ピンク・フロイドなどのアートワークで著名なデザイン集団ヒプノシスが共同で手がけました。

商業的な成功

『トリック・オブ・ザ・テイル』は、新生ジェネシスとして確かな手応えを掴む商業的成功を収めました。本国イギリスのアルバムチャートでは最高3位を記録し、実に39週にわたりチャートに留まるロングヒットとなりました。また、アメリカのBillboard 200では31位にランクインし、ジェネシスにとって初めてのトップ40入りを達成しました。これにより、バンドはこれまでのプログレファンに加え、より広い層からの支持を獲得し始めたと言えるでしょう。

収録曲

アルバムには、以下の8曲が収録されています。

ダンス・オン・ア・ヴォルケーノ (Dance on a Volcano) - 5:57
エンタングルド（旧邦題からまり）(Entangled) - 6:27
スコンク (Squonk) - 6:30
マッド・マン・ムーン (Mad Man Moon) - 7:35
ロベリー、アソールト&バッテリー (Robbery, Assault and Battery) - 6:18
リプルス（旧邦題さざなみ）(Ripples...) - 8:05
ア・トリック・オブ・ザ・テイル (A Trick of the Tail) - 4:35
ロス・エンドス (Los Endos) - 5:52

これらの楽曲は、それまでのプログレッシブな複雑さと、フィル・コリンズの歌声を活かしたメロディアスな側面が見事に融合しており、バンドの新たな音楽的方向性を示すものとなりました。特に、アルバムオープニングの「ダンス・オン・ア・ヴォルケーノ」や、壮大なフィナーレを飾る「ロス・エンドス」などは、ライブでも重要なレパートリーとして長く演奏されました。

参加ミュージシャン

本作のレコーディングには、以下の4人のメンバーが参加しました。

フィル・コリンズ：ボーカル、ドラムス、パーカッション
スティーヴ・ハケット：エレクトリックギター、12弦ギター
マイク・ラザフォード：ベース、ベース・ペダル、12弦ギター
トニー・バンクス：ピアノ、シンセサイザー、オルガン、メロトロン、12弦ギター、バッキング・ボーカル

『トリック・オブ・ザ・テイル』は、メンバーチェンジという困難な状況を乗り越え、バンドが新たな音楽性を確立し、商業的な成功も収めた、ジェネシスの歴史において極めて重要な節目となったアルバムと言えるでしょう。

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