トレディチ・コムーニ

トレッディチ・コムーニ：13の自治体とチンブロ語の痕跡

イタリア共和国ヴェネト州ヴェローナ県北部、レッシニアと呼ばれる高原地帯に位置するトレディチ・コムーニ（Tredici Comuni）。イタリア語で「13のコムーネ（共同体）」を意味するこの地名は、中世、13の都市が同盟を結び、ミラノ公国やヴェネツィア共和国の支配下にあっても、高度な自治を維持していた歴史を反映しています。

トレディチ・コムーニは、地理的にはヴェローナ県北東部の高原地帯に広がり、現在では8つのコムーネ（基礎自治体）に再編されています。最大の自治体はボスコ・キエザヌオーヴァです。

この地域の歴史は、13の都市が緩やかな連合を形成した1280年ごろに始まります。その後、ミラノ公国のヴィスコンティ家、そしてヴェネツィア共和国の支配を受けながらも、広範な文化的・政治的自由を認められ、独自の自治を保っていました。この状況は、ナポレオン戦争によるヴェネツィア共和国の滅亡（1797年）まで続きました。

トレディチ・コムーニにおける特筆すべき点は、住民の多くがドイツ語系の少数民族言語であるチンブロ語（キンブリ語）を母語としていたことです。1854年には、1万2400人のチンブロ語話者がいたと推定されています。しかし、20世紀に入ると、ムッソリーニ政権下のイタリア化政策によって、チンブロ語と文化は大きな圧力を受け、衰退の一途をたどりました。この政策は、チンブロ語の衰退に大きな影響を与えたとされています。

イタリア化政策による弾圧にもかかわらず、わずかながらチンブロ語は生き残りました。特に、ジャッツァ（Ljetzan、ドイツ語ではGletzen/Gliesen）では、チンブロ語が比較的多く話され続けています。1992年の調査では、ジャッツァの人口の65％にあたる230人がチンブロ語話者であったと報告されています。

チンブロ語は、ゲルマン語派の上部ドイツ語に属するバイエルン語の変種で、北イタリアにおける言語島として、トレディチ・コムーニの他にルゼルナ（トレント自治県）やセッテ・コムーニ（ヴィチェンツァ県）などにも分布しています。トレディチ・コムーニでは、トレディチ・コムーニ方言が話されていました。しかし、ユネスコはチンブロ語を危機に瀕する言語と位置付けており、2000年時点ではジャッツァにおいても消滅しつつあると報告しています。

現在、ジャッツァには「Tautsche Püachar Haus」と呼ばれる文化研究所と民族博物館があり、チンブロ文化の保存と、他の言語島との協力を通じて、チンブロ語の継承に努めています。かつて広く使われたチンブロ語の痕跡は、現在もいくつかの地名に残されています。トレディチ・コムーニの文化と歴史は、イタリア統一後も、独自の言語と文化を維持しようとする人々の努力によって、わずかながらも受け継がれているのです。

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