ルゼルナ

ルゼルナ：イタリア・アルプスに息づくチンブロ語の村

イタリア北東部、トレンティーノ＝アルト・アディジェ州トレント自治県に位置するルゼルナは、人口約300人の小さな村です。周囲は緑豊かなアルプス山脈に囲まれ、静かで穏やかな時間が流れていますが、この村にはイタリアでは珍しい特徴があります。それは、ドイツ語系の少数言語であるチンブロ語が、現在もなお活発に話されていることです。

チンブロ語とルゼルナの住民

チンブロ語は、ゲルマン語派の上部ドイツ語に属するバイエルン語の変種です。イタリア語圏の中では、言語島を形成しており、ルゼルナ以外にも、ヴェネト州のセッテ・コムーニやトレディチ・コムーニなどにも話者が見られますが、ルゼルナはその中でもチンブロ語話者の割合が特に高く、伝統が色濃く残る地域として知られています。

2011年の国勢調査では、住民の約84%がチンブロ語を話すと回答しており、多くの住民が日常的にチンブロ語を使用しています。2001年の調査では、住民の約90%がチンブロ語を第一言語（母語）として挙げており、この高い割合は、ルゼルナにおけるチンブロ語の文化的・社会的意義を示しています。

他地域ではチンブロ語話者が減少している中で、ルゼルナでの活発な使用は、言語の存続にとって非常に重要な意味を持ちます。ユネスコはチンブロ語を危機に瀕する言語として分類していますが、ルゼルナでは、村人たちの意識と努力によって、その言語と文化が守られています。

地理と周辺環境

ルゼルナは、アジアーゴから西北西へ15km、トレントから南東へ23kmの場所に位置しています。隣接するコムーネには、カルドナッツォ、ラヴァローネ、レーヴィコ・テルメなどがあり、ヴィチェンツァ県に属するペデモンテ、ロトツォ、ヴァルダスティコとも接しています。周囲の山々は、美しい自然景観を形成しており、トレッキングやハイキングを楽しむ観光客も訪れています。

行政と文化の保護

ルゼルナは、「アルティピアニ・チンブリ」という広域行政組織に属しています。この組織は、トレント自治県が設置したもので、チンブロ語圏の自治体の協力を推進しています。ルゼルナでは、独自の文化と伝統を守るため、県の条例に基づいて文化研究所が設立されており、イタリア政府からの国費補助を受けて、チンブロ語の研究や教育、文化イベントの開催などを行っています。

ルゼルナの未来

ルゼルナは、小さな村でありながらも、独自の言語と文化をしっかりと守り、未来へと継承していく努力を続けています。チンブロ語という貴重な言語が、この村でこれからも生き続け、独特の伝統と文化が花開いていくことを願ってやみません。その努力は、イタリアにおける多言語主義と文化的多様性の重要性を示す、貴重な事例となっています。

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