トヴェリ大公国

トヴェリ大公国：ヴォルガ交易路とモスクワの影で栄え、そして滅びた公国

トヴェリ大公国は、現在のロシア、トヴェリ市を首都としたルーシの諸公国のひとつです。1247年に分領公国として誕生し、最盛期には「大公国」を称しましたが、1485年にモスクワ大公国に併合され、その歴史に終止符を打たれました。本稿では、トヴェリ大公国の興亡、周辺諸勢力との関係、そして複雑な内紛の歴史を詳細に見ていきます。

地理と周辺勢力

トヴェリ大公国は、東西を結ぶ重要な交易路であるヴォルガ川沿いに位置していました。ただし、大公国成立時にはこの交易路は既に衰退期に差し掛かっていたと考えられています。大公国は多くの都市を領有し、カシン、ミクリン、ホルム、ドロゴブージといった都市はそれぞれ独立した分領公国（カシン公国、ミクリン公国、ホルム公国、ドロゴブージ公国）の首都として発展しました。

北にはノヴゴロド共和国、西にはスモレンスク公国（一時、その分領公国であるルジェフ公国を併合）、南と東にはペレヤスラヴリ・ザレスキー公国、ロストフ公国、そして宿敵となるモスクワ公国が隣接していました。特にノヴゴロド共和国との関係は複雑で、防衛協定を結ぶ一方、勢力圏を巡る緊張関係が続きました。

大公の称号と継承

「大公（ヴェリーキー・クニャージ）」の称号の使用については諸説あります。ロゴジュスク年代記には、アレクサンドル大公がジョチ・ウルスからこの称号を返還されたと記されていますが、実際の使用はそれよりも後だったとする説も存在します。14世紀末から15世紀にかけてのモスクワとの条約では、アレクサンドルは「大公」と呼ばれているのに対し、その後のコンスタンチンやヴァシリーは「公」と記されています。ミハイル以降は「大公」の称号が定着したようですが、オトローチ修道院の資料には、ヴァシリーも「大公」と記されている記述も見られます。称号の使用は、政治的な状況や権威を示すための手段として流動的であったと考えられます。

モスクワ大公国との覇権争い

トヴェリ大公国とモスクワ大公国は、ウラジーミル大公位を巡って激しい覇権争いを繰り広げました。ミハイル大公の時代、トヴェリはモスクワと幾度も軍事衝突し、ボルテネヴォの戦いでは勝利を収めるも、ミハイルはジョチ・ウルスのハンによって暗殺されました。その後も、ウラジーミル大公位をめぐる争いは続き、トヴェリとモスクワの対立は、しばしばジョチ・ウルスや教会勢力の介入を招きました。

1327年のチョルハン事件では、トヴェリはジョチ・ウルスの支配に反旗を翻し、チョルハンを殺害しましたが、モスクワとスーズダリの連合軍の報復攻撃を受け、大打撃を受けました。この事件は、トヴェリ大公国の衰退の端緒となりました。

内紛と衰退

大公位を巡る内紛も、トヴェリ大公国の衰退を加速させました。ホルム公フセヴォロドとトヴェリ公コンスタンチン、そしてカシン公ヴァシリーらの間で、幾世代にもわたる争いが続きました。この内紛には、ジョチ・ウルスやモスクワ公国が度々介入し、複雑な政治的駆け引きが繰り広げられました。

ペストの流行も、トヴェリ大公国に大きな打撃を与えました。フセヴォロドやドロゴブージ公セミョーンらが相次いで病死し、新たな紛争の火種となりました。ミクリン公ミハイルとドロゴブージ公エレメイ、そしてトヴェリ公ヴァシリーは、ベルィー・ゴロドクを巡って争い、内紛は激化しました。この内紛は、ミハイルがトヴェリ公位を獲得する形で終息したものの、モスクワとの対立は継続しました。

モスクワ大公国への併合

モスクワ大公ドミトリーとの間では、幾度も戦争が勃発しました。1374年の戦争では、トヴェリはモスクワに屈服し、モスクワの「弟」の立場を認めざるを得ませんでした。ミハイル大公の時代にも、モスクワとの戦争は続き、最終的には1485年、イヴァン3世によってトヴェリは陥落しました。ミハイル大公はリトアニアに亡命し、トヴェリ大公国はモスクワ大公国に併合されました。

併合後、トヴェリ大公国はモスクワ大公国の支配下に置かれ、1492年までに完全にモスクワ大公国の行政・税制に組み込まれました。トヴェリ大公国の歴史は、ヴォルガ交易路という地理的条件、モスクワ大公国という強力な隣国、そして内部の複雑な権力闘争が絡み合った結果として、終焉を迎えたと言えるでしょう。その後、1585年にはカシモフ・ハン国のシメオン・ベクブラトヴィチがトヴェリ大公の称号を名乗った記録が残されていますが、大公国の復活とはなりませんでした。

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