トーマス・クヴァストホフ

トーマス・クヴァストホフは、ドイツ出身のバス・バリトン歌手です。1959年11月9日に西ドイツのヒルデスハイムで生まれました。彼の人生は、母親が妊娠中に服用したサリドマイドという薬の副作用により、重篤な障害を持って生まれたことから始まりました。身長は134cmと低く、手足も短いというハンディキャップを抱えていました。

しかし、クヴァストホフは、その肉体的な困難を乗り越え、音楽の才能を開花させます。17歳から声楽を学び始め、ハノーファー音楽院への入学を希望しましたが、ピアノが弾けないという理由で拒否されます。その後、ハノーファー大学で法学を専攻し、卒業後は北ドイツ放送（NDR）でラジオアナウンサーやテレビ番組の音声担当として働きました。

1984年、クヴァストホフは音楽活動を開始し、ヴュルツブルクやブラチスラヴァのコンクールで入賞。1988年には、ミュンヘン国際音楽コンクール声楽部門で優勝し、審査員のディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウに絶賛され、歌手としてのキャリアをスタートさせました。NDRを退職後、1989年のカッセルでのグスタフ・マーラー・フェスティヴァルで『さすらう若者の歌』を歌い、1995年にはヘルムート・リリングの招きでオレゴン・バッハ音楽祭に出演し、アメリカデビューを果たしました。

クヴァストホフは、ロマン派音楽を主要なレパートリーとしていましたが、J.S.バッハをはじめとするバロック音楽や、ジャズの即興演奏にも挑戦しました。1998年のオレゴン・バッハ音楽祭では、ペンデレツキの『クレード』でソリストを務め、そのライブ録音はグラミー賞を受賞しています。2003年には、ザルツブルク復活祭音楽祭でベートーヴェンの『フィデリオ』でオペラデビューを果たし、2004年にはウィーン国立歌劇場でワーグナーの『パルジファル』に出演しました。2006年には、ジャズアルバム『The Jazz Album: Watch What Happens』をリリースし、新たな音楽の可能性を追求しました。

クヴァストホフは、歌手活動の傍ら、教育活動にも熱心に取り組みました。1996年から2004年までデトモルト音楽大学で教鞭をとり、その後はハンス・アイスラー音楽大学ベルリンで教職を務めました。また、2009年にはヘルベルト・フォン・カラヤン音楽賞やロイヤル・フィルハーモニック協会のゴールド・メダルを受賞し、オーストリア政府から宮廷歌手の称号を授与されました。

しかし、2011年に喉頭炎と診断され、ジャズのステージから引退。2012年には、健康上の理由から歌手活動からも引退することを発表しました。引退後は、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンでの教職活動や、声楽コンクール「ダス・リート」の芸術監督としての活動を継続し、朗読の分野でも活躍しています。

クヴァストホフは、その卓越した歌唱力と音楽性、そして困難に立ち向かう不屈の精神で、世界中の音楽ファンを魅了しました。彼の音楽は、これからも多くの人々に感動を与え続けることでしょう。

主な受賞歴
第42回グラミー賞最優秀クラシック独唱部門：マーラー『少年の魔法の角笛』
第46回グラミー賞最優秀クラシック独唱部門：シューベルト『管弦楽編曲版による歌曲集』
* 第48回グラミー賞最優秀クラシック独唱部門：J.S.バッハ『カンタータ集』

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