ドムス・フラウィア

ドムス・フラウィア

ドムス・フラウィア（ラテン語: Domus Flavia）は、イタリア、ローマの中心部にあるパラティヌスの丘（パラティーノの丘）に広がる、古代ローマ帝政期の壮大な宮殿跡です。この宮殿は、紀元1世紀末、ローマ帝国第11代皇帝ドミティアヌスの命により建設されました。彼は、東に隣接するドムス・アウグスターナ（公邸）と共に、帝国の新たな中心地としてこの宮殿複合体を計画しました。ドムス・フラウィアは皇帝の公式な政務を行う官邸として、ドムス・アウグスターナは皇帝の私的な居住空間として区別されて使用されました。

建設地は、古くからローマの権力の中枢であったパラティヌスの丘の中央部にあたります。先行するアウグストゥス帝やネロ帝などが築いた旧建築群を取り壊した広大な敷地に、この新しい宮殿が築かれました。著名な建築家ラビリウスによって設計され、ドミティアヌス帝の即位直後である紀元81年から92年にかけて建設が進められました。完成後、この壮麗な宮殿は約300年間、歴代ローマ皇帝の公式な執務空間、すなわち帝国の官邸として重要な役割を果たしました。

宮殿の構造

ドムス・フラウィアは、その広大な敷地内に複数の機能を持つ空間が配置されていました。この宮殿の中心部は、広大なペリスティリウム（列柱廊に囲まれた中庭）によって構成されています。特に印象的なのは、中庭の中央に配された八角形の池で、その形状は迷路図形を思わせます。周囲を巡る列柱廊には、華やかな黄色のヌミディア産大理石を用いたコリント式円柱が立ち並び、池自体もまた多様な色彩を持つ大理石で装飾され、訪れる者に威厳と美しさを示しました。

ペリスティリウムの北西側には、建物への主要な入口として機能したと推測される、独特な八角形の広間が配置されています。

中央ペリスティリウムの北東に面しては、壮大な3つの広間が横一列に並んでいます。中央の最も大きな広間は、アウラ・レギア（Aula Regia）、すなわち「玉座の間」と呼ばれていました。ここは皇帝が外国からの使節団と謁見し、あるいは政府高官からの重要な報告を受けるなど、帝国の公式な儀式や政務の中心地でした。幅30.5メートル、奥行き38.7メートル、高さ約30メートルという圧倒的なスケールを持ち、壁面の壁龕には多数の彫像が飾られ、大理石の円柱が空間を荘厳に彩っていたと伝えられます。

アウラ・レギアの両脇には、それぞれバシリカ（Basilica）とララリウム（Lararium）が配置されていました。バシリカは、円柱が並ぶ三廊式の構造を持つ広間で、その用途については、法廷として裁判が行われた場所、あるいは重要な来客を迎え入れる応接室であったなど、複数の説が提唱されています。一方、ララリウムは、皇帝の守護神などを祀るための皇帝礼拝室として使われたと考えられています。

中央ペリスティリウムの南西側には、トリクリニウム（Triclinium）と呼ばれる大広間があります。ここは、皇帝が盛大な晩餐会や宴を開き、賓客をもてなした場所と推測されています。面積は29.1メートル×31.6メートルで、床には色彩豊かな大理石が埋め込まれ、さらにその下には古代ローマ式の冷暖房システムであるハイポコーストが整備されており、快適な環境が保たれていました。トリクリニウムの両側には、優美な楕円形の大理石製噴水（ニンファエウム）が設けられていました。これらの噴水は、視覚的な美しさだけでなく、夏季には水の蒸発によって周囲の空気を冷やす自然な冷房装置としての役割も果たしていたと考えられます。

現在、遺跡として残るドムス・フラウィアからは、往時の宮殿の壮麗さと、ローマの技術の高さをうかがい知ることができます。南東側の噴水跡地には博物館の建物が建てられており、当時の面影は失われていますが、ここがかつて世界を支配した帝国の心臓部であったことを物語っています。

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