ドルニエDo335

Do 335 プファイル

第二次世界大戦中、ドイツの航空機メーカー、ドルニエ社によって開発・製造されたのが、このDo 335戦闘爆撃機、通称「プファイル」（Pfeil＝矢）です。最大の特徴は、その類を見ないエンジンの配置方法にありました。コックピットを挟むように、機首と胴体後部にそれぞれ1基ずつエンジンを搭載する「双発串型」というレイアウトを採用しています。この独特の形態から「矢」の愛称が与えられたほか、一部では「アマイゼンベア」（Ameisenbär＝オオアリクイ）とも呼ばれたと言われています。

レシプロエンジン機としては驚異的な最高速度770km/hを誇り、その高速性能は当時のトップクラスでした。しかし、胴体後部のプロペラが存在するため、緊急脱出の際には特殊なシステムが必要でした。パイロットが後部プロペラに巻き込まれる事故を防ぐため、まず垂直尾翼と後部プロペラを爆砕し、その後、圧縮空気式の射出座席でパイロットを機外に射出するという、当時の航空機としては極めて先進的な脱出システムを備えていました。エンジンのうちどちらか一方が停止しても飛行は可能でした。試験飛行の記録によれば、高速性、加速性、そして双発機としては異例の高い運動性を兼ね備えていたと評価されています。

開発の経緯

ドルニエ社は1937年には既にエンジンの串型配置に関する特許を取得しており、この形式の実験機で基礎的なデータ収集を進めていました。1942年、ドイツ航空省が時速800km/hを発揮する単座爆撃機の開発を求めた際、ドルニエ社はこの串型配置を採用した設計案を提出し、見事採用されます。これがDo 335として正式に開発がスタートするきっかけとなりました。

当初は爆撃機として計画されていましたが、開発開始後まもなく多用途重戦闘機へと仕様が変更されました。それでも機体の基本設計に大きな変更はありませんでした。試作初号機（V1）は1943年10月26日に初飛行に成功します。この時点での速度性能は要求には及びませんでしたが（約600km/h）、優れた運動性と安定性を持つ機体であることが実証されました。翌年には最重要量産機に指定され、空軍から複数の発注を受けますが、1944年3月に生産工場が連合軍の爆撃で壊滅するという打撃を受けます。生産は遅れ、1944年9月にようやく数機が完成し、実用試験が開始されました。しかし、その後も生産は思うように進まず、終戦までに完成した機体はわずか35機にとどまりました。実戦参加の公式な記録はありませんが、終戦直前の1945年4月には、イギリス空軍機が飛行中のDo 335を目撃したという報告が残されています。

特異な構造と性能

Do 335は、制空権が確保されていない状況下でも高速で侵入し爆撃できる双発機というドイツ軍の要求仕様に基づいて設計されました。具体的には、500kgの爆弾を搭載した状態で800km/hの速度を発揮することが求められました。

本機は機首に環状冷却器と液冷式のDB 603エンジン（最大1750馬力、後に1800馬力に換装）、胴体中央後方に同様のDB 603エンジンを配置しています。後部のエンジンは延長軸を介して機尾のプロペラを駆動させます。この延長軸は、共振を防ぐために複数箇所で分割され、柔軟性のある継手で接続されていました。胴体後部は頑丈な構造で、ねじれや振動に強い設計となっています。

エンジンが全て胴体中心線近くに配置されているため、従来の主翼下にエンジンを持つ双発機に比べてロール（横転）性能が優れていました。これは、回転軸線から離れた位置に質量がないため、機体の回頭性が高まるためです。一方で、機首の上げ下げに関しては、重心から離れた位置にエンジン質量があるため、通常の双発機ほど速くないという側面もありました。しかし、総合的には双発機としては高い運動性を持つと評価されました。

また、エンジンやカウリングが胴体内に収まっているため、通常の双発機よりも空力的な抵抗が少なく、優れた加速性能と速度性能を発揮しました。機首と機尾のプロペラが互いに逆方向に回転することでトルクを打ち消し合い、全力運転時でも機体が偏向しないという利点もありました。さらに、片方のエンジンが停止しても推力の偏りが生じにくく、後部エンジンのみでも比較的スムーズな飛行が可能でした（約560km/h）。

武装としては、機首のプロペラ軸内を通る独自の配置を持つ30mm機関砲MK 103Mをモーターカノンとして装備し、さらに機首上部に2門の20mm機関砲MG 151/20を備えていました。これにより、大口径砲弾をプロペラ圏外から発射し、反動による機体のブレを最小限に抑えることができました。

主翼は前縁に軽い後退角を持ち、上反角は6度でした。前輪式の降着装置を採用し、主脚は内側へ引き込まれました。胴体下部には爆弾倉があり、主翼下のラックには増槽や爆弾を搭載できました。

安全装備として特筆されるのは、後部プロペラとの干渉を避けるための射出座席システムです。脱出時には、爆発ボルトにより垂直尾翼と後部プロペラが切り離され、キャノピーが投棄された後、座席が圧縮空気で射出されます。射出された座席は姿勢安定用のパラシュートを展開し、乗員はその後座席から離れて自身のパラシュートで降下する仕組みでした。

主要スペック (Do 335 A-0)

乗員: 1名
全長: 13.85 m
全幅: 13.80 m
全高: 5 m
エンジン: ダイムラー・ベンツ DB 603A 液冷倒立V型12気筒 × 2基 (各1750馬力)
最高速度: 763 km/h (高度6,400m)
航続距離: 2,150 km
武装: 30mm機関砲 × 1、20mm機関砲 × 2、最大1,000 kgの爆弾

バリエーション

Do 335には、試作機（Vシリーズ）のほか、先行量産型（A-0）、エンジンを強化した戦闘機型（A-1）、偵察機型（A-4）、複座の夜間・全天候戦闘機型（A-6）、練習機型（A-12）などが計画または製造されました。また、武装を強化した重戦闘機型（Bシリーズ）や、ジェットエンジンとの混合動力型（Do 435）、さらには双胴の長距離偵察型（Do 635）や純粋なジェット夜間戦闘機型（Do-P 256）といった先進的な計画機も存在しました。

革新的な設計思想と高性能を持ちながらも、戦局の悪化と生産体制の破壊により、少数の機体が完成するにとどまり、その真価を十分に発揮することなく終戦を迎えた機体と言えるでしょう。

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