ドン・ニックス

ドン・ニックス：サザン・ソウルの知られざる巨星

ウィリアム・ドナルド・ニックス（William Donald Nix、1941年9月27日 - 2024年12月31日）は、アメリカ合衆国出身の多才なミュージシャンであり、ソングライター、音楽プロデューサーとしてもその名を馳せました。彼は、特に「Going Down」の作者として広く知られており、オールミュージックからは「サザン・ソウルおよびロック界において、知る人ぞ知る存在のひとり」と評されています。

ソロアーティストとしては、1971年から2008年の間に9枚のアルバムをリリースし、3冊の著書も出版するなど、多岐にわたる才能を発揮しました。

生い立ちと初期のキャリア

1941年、ドン・ニックスはテネシー州メンフィスで、音楽一家の一員として生を受けました。彼の弟、ラリーは、メンフィスの名門スタックス・レコードおよびアーデント・スタジオでマスタリング・エンジニアとして活躍しました。ドン・ニックスの音楽キャリアは、スティーヴ・クロッパー、ドナルド・ダック・ダンといった後の音楽シーンを牽引する才能たちと共に、メンフィスを拠点とするグループ、マーキーズに参加し、サクソフォーンを担当したことから始まりました。マーキーズは1961年に「Last Night」をリリースし、シングル・ヒットを記録しています。マーキーズ脱退後、ニックスはスタックスのセッション・ミュージシャンとして活動の幅を広げました。

1960年代半ばには、活動拠点をロサンゼルスに移し、レオン・ラッセル、ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズ、ジョン・メイオール&ブルースブレイカーズ、フレディ・キングなどの著名なアーティストのプロデューサーおよびソングライターとして活躍しました。ニックスの代表作である「Going Down」は、1969年にモロックというバンドのアルバム『Moloch』に収録され、その後、ジェフ・ベック・グループ、ザ・フーといった数々の著名なアーティストによってカバーされ、ブルースロックのスタンダードナンバーとしての地位を確立しました。1971年には、ジョージ・ハリスンとの出会いをきっかけに、バングラデシュ・コンサートのバック・ヴォーカリストを手配することにも貢献しました。

ソロ・デビューとアラバマ・ステート・トルーパーズ

1971年、ドン・ニックスは旧知の仲であったレオン・ラッセルのレーベル、シェルター・レコードから初のソロアルバム『In God We Trust』をリリース。同年には、セカンドアルバム『Living by the Days』をエレクトラ・レコードから発表しました。

さらに同年、ジーニー・グリーン、ファーリー・ルイスらとアラバマ・ステート・トルーパーズを結成し、全米ツアーを敢行しました。このツアーは当初、『Living by the Days』のプロモーションを目的として企画されましたが、ベテラン・ブルース・アーティストであるルイスがオープニングを務めるなど、独自の音楽性を打ち出すこととなりました。翌1972年、エレクトラはこのツアーのライブ盤『Alabama State Troupers Road Show』をリリースしました。しかし、アラバマ・ステート・トルーパーズは短命に終わり、この一度限りのツアーで解散しました。

ソロ・アーティストとして精力的に活動を展開したニックスでしたが、作品のセールスは伸び悩み、次第に他のアーティストのレコーディングへの参加が中心となっていきました。

1980年代には自身の作品のリリースはありませんでしたが、ナッシュビルに拠点を移し、再びソングライティングと他のアーティストのプロデュースに注力するようになりました。

後年の活動と来日公演

2002年には、約10年のブランクを経てアルバム『Goin' Down: The Songs of Don Nix』をリリースしました。このアルバムには、ブライアン・メイ、トニー・ジョー・ホワイト、ボビー・ブラムレットなど、豪華ゲストが参加し、新曲を含む自身の楽曲を歌うという内容でした。

その後、2006年と2008年にもソロアルバムを発表しました。

2013年には、ロニー・ナイトと共に来日公演を行い、十分な環境とは言えない状況下ではありましたが、日本人プレイヤーを含むバンドのサポートを得て、往年のレパートリーを中心に披露しました。

晩年と死

ドン・ニックスは2024年12月31日、テネシー州ジャーマンタウンの自宅で逝去しました。83歳でした。死因は明らかにされていませんが、黄斑変性症を患い、視力を失っていたと伝えられています。

ディスコグラフィー

ソロ

1971年 『In God We Trust』 (Shelter)
1971年 『Living by the Days』 (Elektra)
1973年 『Hobos, Heroes and Street Corner Clowns』 (Enterprise)
1976年 『Gone Too Long』 (Cream)
1979年 『Skyrider』 (Cream)
1993年 『Back to the Well』 (Appaloosa)
2002年 『Goin' Down: The Songs of Don Nix』 (Evidence Music)
2006年 『I Don't Want No Trouble!』 (Section Eight)
2008年 『Passing Through』 (Section Eight)

アラバマ・ステート・トルーパーズ

1971年 『Alabama State Troupers Road Show』 (Elektra)
2005年 『Live for a Moment』 (AIM)

著書

1997年 『Road Stories and Recipes』 (Schirmer Books/Simon & Schuster, New York) ISBN 0-02-864621-5
『Who's That with Don Nix?』 – ドン・ニックスの個人的な経験を記したフォトジャーナル
1997年, 2015年 『Memphis Man: Living High, Laying Low』 (Sartoris Literary Group, Jackson, Mississippi) ISBN 978-1-941644-39-3

ドン・ニックスは、その才能と音楽への情熱で、サザン・ソウル/ロックシーンに多大な貢献をしました。彼の音楽は、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

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