ドーン・ド・マイヤンス

ドーン・ド・マイヤンス (Doon de Mayence)

ドーン・ド・マイヤンスは、中世の古フランス語で語り継がれた武勲詩に登場する伝説的な英雄であり、その名を冠した物語群の主人公でもあります。「フランスもの」と呼ばれる叙事詩サイクルにおいて、彼は王権に対する反逆を主要なテーマとする一群の物語の中心に位置づけられています。彼の周囲には、後の時代に活躍する多くの著名な英雄たちが系譜的に連なるとされています。

ドーン・ド・マイヤンスを巡る武勲詩群は、全体として構成上の統一性や物語間の整合性に欠ける側面が見られます。詩人たちは、しばしば史実の反逆者や、創作された反抗的な人物たちを、ドーンという祖先と結びつけるために架空の系譜を持ち出しました。これらの物語において、ドーンの子孫とされる反逆者たちは、一様にフランク王国のカール大帝（シャルルマーニュ）に敵対する存在として描かれます。ただし、彼らが敵対する君主としての「シャルルマーニュ」は、歴史上の実在の人物というよりは、物語上の「敵対する王権」を象徴する記号的な存在として描かれていることが多いと考えられています。特に、ドーンの孫世代の物語になると、史実におけるシャルルマーニュ帝の生存期間とは年齢的な辻褄が合わなくなることから、この解釈が裏付けられます。

反逆者の家系とされるマインヤスの一族にまつわる物語は、イタリアを含む地域で広く発展し、後に「フランスもの」の武勲詩の中にも取り入れられていきました。『フレデガーの年代記』のような歴史的文献には、フランク王国のシギベルト1世（ジークベルト）がマインヤス出身者による反逆に直面し、テューリンゲン地方のウンシュトルト川付近で戦ったという記述が見られます。このような歴史上の出来事が、武勲詩における反逆のテーマや特定の家系の物語に影響を与えた可能性が指摘されています。

ドーン・ド・マイヤンスを祖とする物語群の中で特に有名な武勲詩としては、『オジェ・ル・ダノワ』、『ルノー・ド・モントーバン』、そして『ユオン・ド・ボルドー』などが挙げられます。これらの英雄たちの物語は、しばしばドーン・ド・マイヤンスの系譜と結びつけられています。ドーンは系譜上の最終的な祖として明確に位置づけられているため、彼の功績や存在自体が、後世の英雄たちにふさわしい祖先像を与えるために部分的に創作された可能性も考えられています。

彼自身の物語である『ドーン・ド・マイヤンス』の武勲詩は、構成が大きく二部に分かれています。後半部分で描かれるサクソン人との戦いは、ある程度史実に基づいた要素を含んでいるとされます。しかし、物語の前半部分、特にドーンの少年時代を描いたエピソードは、構成が全く異なり、13世紀になってから付け加えられた純粋なフィクションであると考えられています。このように、『ドーン・ド・マイヤンス』の物語自体も、時代の経過とともに内容が変容していったことがうかがえます。

ドーン・ド・マイヤンスには、伝承によれば12人の息子がいたとされています。中でも特に有名な息子たちとその子については、以下のような記述が見られます。

• - デンマークのジョフロワ (Gaufrey de Danemarche): 武勲詩『オジェ・ル・ダノワ』の主人公、オジェ・ル・ダノワの父親とされています。
• - グリフォン (Griffon d’Hauteville): シャルルマーニュの廷臣であり、後に裏切り者として知られるガヌロンの父親とされています。
• - ドルドーニュのエイモン (Aymon de Dordone): 武勲詩『ルノー・ド・モントーバン』の主人公であるルノーをはじめとする、4人の有名な息子の父親とされています。
• - エグルモンのボーヴェ (Beuves d’Aigremont): 高名な魔術師モージ（マラジジ）や、勇士ヴィヴィアン・ド・モンブラックの父親とされています。
• - スヴァン (Sevin): 武勲詩『ユオン・ド・ボルドー』の主人公であるユオン・ド・ボルドーの父親とされています。
• - ジラール・ド・ルシヨン (Girart de Roussillon): シャルルマーニュ帝と敵対関係にあった英雄として知られています。

これらの息子たちを通して、ドーン・ド・マイヤンスは多くの有名な武勲詩の主人公たちの祖先として位置づけられ、その系譜は「フランスもの」の世界において重要な役割を果たしています。

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