フランスもの

フランスもの（Matière de France）

「フランスもの」とは、カロリング物語群とも称される、中世フランスの武勲詩を起源とする伝説の集まりです。古フランス語で書かれたこれらの物語は、叙事詩の形で発展しましたが、現代では中世の叙事詩としての形ではあまり読まれていません。

概要

「フランスもの」は、中世フランスの作家によって、「ブルターニュもの」（アーサー王物語）や「ローマもの」（ギリシア神話や古代ローマの歴史）と対比される形で位置づけられました。12世紀には、詩人ジャン・ボデルがこれら三つの物語群を称賛しています。

「フランスもの」の中心人物は、シャルルマーニュと彼のパラディン（十二勇士）たちです。特に、ローランとオリヴィエが有名で、ローランは『ローランの歌』の主人公として、シャルルマーニュの甥という設定で登場します。オリヴィエはローランの親友であり、イスラム軍の戦士フィエラブラと戦う役を担っています。

当初、「フランスもの」は、シャルルマーニュやカール・マルテルの時代におけるフランク族とイスラム教徒の戦いを背景に、騎士たちの武功を中心に描かれていました。例えば、『ローランの歌』は、イスラム勢力がフランス南部に侵攻した時代のロンスヴォーの戦いをテーマにしています。

物語が成熟するにつれて、魔法やファンタジーの要素が加わるようになり、魔法の馬「バヤール」などが多くの物語に登場するようになりました。

分類

1215年、ベルトラン・ド・バール＝シュル＝オーブは、「フランスもの」を三つに分類しました。この分類は、現代の評論家にも採用されています。

Geste du roi（王の武勲）：
主にシャルルマーニュを主人公とする物語群で、『ローランの歌』が代表的です。
Geste de Garin de Monglane（ガラン・ド・モングラーヌの武勲）：
ギヨーム・ド・ジェローヌ（ギヨーム・ドランジュ）を中心に、若く相続権を持たない騎士たちが異教徒と戦い、領地と名誉を得る物語群です。
Doon de Mayence（ドーン・ド・マイヤンス）：
王への反逆や裏切りをテーマにした物語群です。

後世への影響

武勲詩の時代が終わった後も、「フランスもの」は、アリオスト、ボイアルド、タッソといったイタリアの詩人たちに影響を与え、『狂えるオルランド』や『恋するオルランド』などの叙事詩が生まれました。これらの作品は「フランスもの」を直接的な源泉としています。

さらに、これらのイタリア作品を通して、イギリスの詩人エドマンド・スペンサーが『妖精の女王』を執筆するなど、間接的な影響も見られます。また、「フランスもの」の物語は、13世紀にノルウェーで書かれた「シャルルマーニュのサガ」にも見ることができます。

19世紀から20世紀にかけて、ケルト文化が見直される中で、アーサー王物語（ブルターニュもの）が再評価されるまでは、「フランスもの」と「ブルターニュもの」は同程度の知名度を持っていました。

近代文学では、「ブルターニュもの」ほど頻繁には用いられませんでしたが、SF作家ポール・アンダースンが『魔界の紋章』で「フランスもの」の世界観を基にしたファンタジー小説を書き、ダンジョンズ&ドラゴンズなどの作品に影響を与えました。また、イタロ・カルヴィーノの小説『不在の騎士』にもシャルルマーニュのパラディンが登場するなど、その影響は多岐にわたります。

このように、「フランスもの」は中世文学に大きな足跡を残し、後の文学やファンタジー作品に影響を与え続けています。

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