ナガバノスミレサイシン

ナガバノスミレサイシン（長葉の菫細辛）

ナガバノスミレサイシン（学名：Viola bissetii）は、スミレ科スミレ属に分類される多年草の一種です。その名の通り、細長い葉が特徴で、ひっそりと美しい花を咲かせます。

特徴

形態: 地下茎を持つ無茎の多年草で、高さは5-12cm程度。
葉: 葉は束生し、三角状長卵形から三角状披針形。長さは5-10cmで、縁には低い鋸歯があります。表面は鮮緑色でほとんど無毛ですが、裏面基部にはまばらに毛があります。開花後に葉が展開し、果実の時期には大きく成長します。
花: 花期は3月下旬から5月上旬。淡紫色の花を咲かせ、直径は約2-2.5cm。花弁には紫色の条があり、特に唇弁の条が顕著です。距は短く、嚢状になっています。芳香はありません。
果実: 卵形状の蒴果で、断面は三角形。紫色の斑模様があります。

分布と生育環境

本州（福島県以西）、四国、九州の太平洋側の、雪の少ない地域に分布する日本固有種です。山地や丘陵の夏緑林の林床や林縁に生育し、適湿な環境を好みます。スギの植林地の下でも見られることがあります。また、ナガバノスミレサイシンは、特異な分布を示す植物群であるソハヤキ要素の一つとしても知られています。

名前と分類

和名の「ナガバノスミレサイシン」は、文字通り「長葉の菫細辛」を意味します。種小名の bissetii は、イギリスの採集家 James Bisset への献名です。

スミレサイシン節には、本種の他にヒメスミレサイシン、シコクスミレ、アケボノスミレ、スミレサイシンなどが含まれます。これらの種は、花の色や葉の形状、開花時期などに違いが見られます。

下位分類と交雑種

シロバナナガバノスミレサイシン: 白花の品種です。
フイリナガバノスミレサイシン: 葉に白い斑が入る変種で、四国と九州の高所に分布します。
ナガバノアケボノスミレ: ナガバノスミレサイシンとアケボノスミレの交雑種です。

鑑賞

ナガバノスミレサイシンは、その繊細な姿から山野草として愛されています。栽培も可能ですが、自生地の環境を再現することが重要です。適度な日陰と湿り気のある場所で、水はけの良い土壌に植えるのがおすすめです。

保護

近年、開発や森林伐採などにより、ナガバノスミレサイシンの生育地が減少しています。自生地の保護や、適切な管理が求められています。見つけた際は、そっと見守ることが大切です。

参考文献

いがりまさし『増補改訂日本のスミレ』山と溪谷社〈山溪ハンディー図鑑〉、2015年
佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年
林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年
* 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑』北隆館、1982年

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