ナジ・イムレ

ナジ・イムレ：ハンガリー動乱の首相、その生涯と悲劇

ナジ・イムレ（Nagy Imre, 1896年6月7日 - 1958年6月16日）は、ハンガリー人民共和国の政治家であり、同国の閣僚評議会議長（首相）を二度務めました。激動の時代に、ハンガリーの民主化と自由化を推進しようとしましたが、ソ連の介入により悲劇的な結末を迎えました。

生い立ちと革命への参加

ナジは、ハンガリー西部のカポシュヴァールで、日雇い農家の家庭に生まれました。石工見習いとして働きながら第一次世界大戦に従軍し、東部戦線でロシアの捕虜となります。この経験が彼の人生を大きく変え、ロシア革命を経て赤軍に参加。ニコライ2世の処刑にも関与したという記録も残っています。

1919年には、クン・ベーラが率いるハンガリー評議会共和国の樹立に関与しますが、その後ソ連に戻り、農業調査に従事しながらコミンテルンのハンガリー代表を務めました。

第二次世界大戦後からハンガリー動乱まで

第二次世界大戦後、ソ連軍がハンガリーを占領する中、ナジはハンガリー共産党の一員としてハンガリー臨時国民政府に参加し、農業大臣に就任します。その後、共産党はハンガリー民主党を吸収し、ハンガリー勤労者党と改組され、ハンガリー人民共和国の指導政党となりました。

1953年6月、ヨシフ・スターリンの死によって失脚したラーコシ・マーチャーシュの後任として首相に就任。スターリンの死後、ハンガリーの共産主義体制に緩みが見え始めると、民衆は低賃金や食糧難に苦しみ、各地でストライキが発生しました。ナジは、この危機的な状況を打開するため、政策の転換を図ります。農業集団化制度を緩和し、宗教への締め付けを弱め、強制収容所を廃止するなど、国民生活の改善を目指しました。しかし、これらの政策はスターリン主義者との対立を招き、1955年4月には首相を退陣、同年11月には勤労者党からも除名されてしまいます。

しかし、民主化と自由を求める国民の声は高まり続け、再びナジを政権に復帰させようという動きが広がります。1956年に党に復帰すると、ハンガリー動乱が勃発し、首相に再任。社会主義者や反共民族主義者との連立政権を組織し、一党独裁体制の解体、ワルシャワ条約機構からの脱退、ハンガリー中立の表明など、次々と民主化・自由化政策を打ち出しました。

しかし、ソ連軍が再びハンガリーに侵攻し、ブダペストを占領。ナジはユーゴスラビア大使館に逃れますが、交渉のため大使館を出たところをソ連軍に拘束され、ルーマニアに連行されます。その後、KGBによる秘密裁判で国家転覆罪に問われ、1958年6月16日に絞首刑に処されました。享年62歳。遺体はブダペスト郊外の市立墓苑に埋葬されました。

処刑後

ナジの後を継いだカーダール・ヤーノシュは、自由民主化を求める動きを徹底的に弾圧しました。動乱が鎮圧された後、カーダール政権は自主管理の導入など融和政策を取りましたが、ナジはあくまで共産主義を裏切った反党分子として扱われました。ナジの名誉が回復されるのは、ソ連でのペレストロイカとその影響によるハンガリー民主化運動を待たなければなりませんでした。

1989年6月16日、ナジの遺体の再埋葬式が執り行われ、ハンガリー社会主義労働者党は、「ハンガリー史において重要な人物であり、国家救済のために闘い、スターリン主義を抑え、不正を許さず反革命と闘った。彼は道筋は誤ったが、民主的複数政党制を認める社会主義の道と一体化した」と声明を発表し、事実上ナジの名誉を回復しました。

現在、ブダペストのマートリスト広場にはナジの銅像が建てられています。また、パリのペール・ラシェーズ墓地には、ナジの慰霊碑が建てられています。

ナジ・イムレは、ハンガリーの歴史における重要な人物として、記憶されるべき存在です。彼の生涯は、激動の時代における政治家の苦悩と、民主化への希望を象徴しています。

著書

共産主義について（1958年、鏡浦書房、翻訳：小山田義文、有田昌哉）

関連項目

ハンガリー動乱

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