ナタリー・クリフォード・バーネイ

ナタリー・クリフォード・バーネイ：20世紀のパリを彩ったレズビアン作家と彼女のサロン

ナタリー・クリフォード・バーネイ(1876-1972)は、アメリカ合衆国オハイオ州生まれのフランス人作家であり、20世紀におけるレズビアン文化の重要な人物です。裕福な家庭に生まれ、多様な文化背景を持つ彼女は、幼少期から型にはまらない自由な精神の持ち主でした。オスカー・ワイルドとの出会いや、フランスの全寮制学校レ・リュシュでの教育は、彼女の知性と芸術への情熱を育みました。

奔放な恋愛とフェミニズム

バーネイは12歳で自身のレズビアンであることを自覚し、公然と女性への愛を表現しました。1900年には、女性への愛を詠んだ詩集を出版。これは、サッポー以来となる女性の同性愛を公然と扱った作品として注目を集めました。単婚制に反対し、生涯を通じて多くの女性と恋愛関係を築いた彼女。詩人ルネ・ヴィヴィアンや画家ロメイン・ブルックスとの長く複雑な関係は、特に有名です。彼女の恋愛遍歴は、小説『サッポーの田園詩』や『さびしさの泉』など数々の作品にインスピレーションを与えました。バーネイは作品を通してフェミニズムや平和主義を訴え、女性の権利向上に貢献しました。

パリ左岸のサロン：文化交流の拠点

バーネイは60年以上もの間、パリ左岸に自身のサロンを開きました。そこには、アメリカの「失われた世代」の作家やイギリスのモダニスト、フランス文学の中心人物など、世界中から多くの作家や芸術家が訪れました。彼女は男性作家からの支持も得ており、アカデミー・フランセーズに対抗する「女性アカデミー」を設立するなど、女性作家支援にも積極的に取り組みました。サロンでは、詩の朗読、演劇、音楽演奏などが行われ、活気ある文化交流の場となりました。コレットやマタ・ハリなどの著名人もサロンに訪れていました。

主要な関係者たち

バーネイの人生には、多くの女性との深い関わりの物語があります。

エヴァ・パーマー・シケリアノス: バーネイの最初の親密な関係。長年に渡り親密な関係を続けましたが、パーマーがシケリアノスと結婚したことで関係は終焉。
ルネ・ヴィヴィアン: 詩人として才能を開花させたヴィヴィアンとの恋愛は、バーネイの創作活動にも大きな影響を与えました。しかし、ヴィヴィアンの病と、他の女性との関係によって、二人は別れを迎えました。
ロメイン・ブルックス: 50年以上にわたる長く複雑な関係を築いたアメリカ人画家。バーネイのサロンのメンバーとも親交がありましたが、ブルックスの独立性と、バーネイの多様な恋愛関係に対する複雑な感情が、二人の関係に影を落としました。
ドリー・ワイルド: オスカー・ワイルドの姪。自己破壊的な傾向を持つワイルドをバーネイは経済的に支援するなど、深く関わりましたが、ワイルドは若くして亡くなりました。

サロンの隆盛と終焉

第一次世界大戦中は、反戦運動の拠点ともなったサロン。戦後も、エズラ・パウンド、トルーマン・カポーティなど、多くの著名な人物が訪れました。1927年には「女性アカデミー」を設立し、女性作家の地位向上に尽力しました。しかし、第二次世界大戦中のバーネイの政治的立場は、議論の的となっています。戦後はサロンを再開しましたが、バーネイとブルックスは別々に暮らすようになり、サロンの活気は次第に衰えていきました。1972年、バーネイは心不全で亡くなりました。

文学的遺産と評価

晩年には作品が忘れられたバーネイでしたが、近年、フェミニストの視点から再評価されています。彼女のサロンや多様な交友関係は、多くの作家に影響を与え、作品にも登場しています。レズビアン文化史における重要な人物として、彼女の功績は今も語り継がれています。彼女のレズビアンであることへの率直さと、女性同士の愛に対する深い理解、そして多くの女性たちとの関係は、現代においても共感と考察を呼び起こします。


主な作品

Quelques Portraits-Sonnets de Femmes (1900)
Cinq Petits Dialogues Grecs (1901)
Actes et entr'actes (1910)
Pensées d'une Amazone (1920)
Aventures de l'Esprit (1929)
The One Who Is Legion (1930)
Souvenirs Indiscrets (1960)
Traits et Portraits (1963)

バーネイの生涯と作品は、多様で複雑なものであり、今もなお多くの研究者や読者によって探求され続けています。

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