ナバス・デ・トロサの戦い

ラス・ナバス・デ・トロサの戦い：レコンキスタを決定づけた一戦

ラス・ナバス・デ・トロサの戦いは、1212年7月16日にイベリア半島（現在のスペイン・アンダルシア州）で、キリスト教国連合軍とイスラム教国ムワッヒド朝の間で行われた歴史的な戦いです。この戦いは、レコンキスタ（国土回復運動）の流れを大きく変え、イベリア半島の勢力図を塗り替える転換点となりました。

戦いの背景：複雑なイベリア半島の情勢

12世紀末、イベリア半島はキリスト教国とイスラム教勢力が入り乱れる複雑な状況にありました。1195年のアラルコスの戦いで、カスティーリャ王アルフォンソ8世はムワッヒド朝に大敗を喫し、領土の一部を失います。さらに、カスティーリャはレオンやナバラといったキリスト教国との間にも紛争を抱え、孤立を深めていました。

しかし、トレド大司教ロドリゴ・ヒメネス・デ・ラダは、キリスト教国間の争いを憂い、対イスラム教での団結を訴え続けました。彼の尽力と教皇インノケンティウス3世の意向を受け、ムワッヒド朝に対する十字軍結成の機運が高まります。1209年、カスティーリャ、アラゴン、ナバラといった主要なキリスト教国が和睦し、共同でムワッヒド朝に立ち向かう体制が整いました。

カトリック連合軍の結集と苦難

1211年、ムワッヒド朝のカリフ、ムハンマド・ナースィルは10万を超える大軍を率いてイベリア半島に上陸し、サルバティエラ城を占領しました。これに対し、アルフォンソ8世は教皇の支援を仰ぎ、フランスを含むヨーロッパ各地から騎士たちが集結します。こうして結成されたカトリック連合軍には、カスティーリャ、アラゴン、ナバラの軍勢に加え、テンプル騎士団、サンティアゴ騎士団などの騎士修道会も参加しました。

しかし、連合軍は一枚岩ではありませんでした。暑さや不慣れな気候に苦しむ者も多く、戦意を喪失して脱落する兵士も続出。当初6万を超えていた兵力は、5万程度まで減少しました。

ナバス・デ・トロサの激戦

1212年7月16日、ついに両軍はナバス・デ・トロサで激突します。カトリック連合軍は、中央をカスティーリャ軍が、左右をアラゴン軍とナバラ軍が固め、ムワッヒド軍は、ベルベル人部隊を前線に配置し、ナースィル自身は後方の丘で黒人親衛隊に守られていました。

当初、ムワッヒド軍は正面衝突を避け、連合軍の疲弊を待つ作戦を取りました。しかし、アルフォンソ8世は敵本陣への突撃を決断。この奇襲が連合軍の士気を高め、ムワッヒド軍を混乱に陥れます。特に、ナバラ王サンチョ7世率いる精鋭部隊は、敵本陣に突入し、ナースィルの親衛隊を打ち破るという劇的な戦果を上げました。

最終的に、ムワッヒド軍は9万とも10万ともいわれる犠牲者を出し敗走。一方、カトリック連合軍の戦死者は2000人ほどでした。

戦いの影響：レコンキスタの加速とイスラム勢力の衰退

ナバス・デ・トロサの戦いの勝利は、レコンキスタの流れを決定づけました。ムワッヒド朝は壊滅的な打撃を受け、イベリア半島のイスラム勢力は急速に衰退していきます。一方、キリスト教国は勢力を拡大し、13世紀にはコルドバ、セビリアといった主要都市を次々と占領しました。

この戦いを契機に、ナバラ王国の紋章には金の鎖が描かれるようになり、現在もスペイン王国の紋章の一部として受け継がれています。

ナバス・デ・トロサの戦いは、イベリア半島の歴史における重要な転換点であり、その後のスペインの成立に大きな影響を与えた出来事として記憶されています。

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