ニコライ・ホジャイノフ

ロシアが誇る現代のクラシックピアニスト、ニコライ・ホジャイノフは、1992年に極東のブラゴヴェシェンスク市で生を受けた。軍人の父と小児科医の母のもとに生まれ、両親は音楽とは直接的な関わりを持たなかったが、彼自身は幼少期に音楽の類まれな才能を開花させる。5歳で早期教育プログラムによりその才能を見出され、その後ピアノの手ほどきを受けた。当時の師からはモスクワでの継続的な学習を強く勧められ、6歳という若さで単身モスクワへ移住した。

彼はロシアン・ピアノスクールの正統な継承者として高く評価されており、特にその詩情豊かな音楽性と圧倒的なヴィルトゥオジティ（超絶技巧）は世界中で称賛されている。チャイコフスキー記念モスクワ音楽院で学び、最優秀生徒に贈られるメダルを授与されて卒業。現在はドイツのハノーファー音楽大学で研鑽を積んでいる。作曲家、そしてピアニストとしてセルゲイ・ラフマニノフを深く尊敬していると語っている。

幼い頃からその才能は際立っていた。5歳でピアノを始め、モスクワ中央音楽学校を経て、7歳でモスクワ音楽院大ホールにてヘンデルのピアノ協奏曲を演奏し、鮮烈なデビューを飾った。

彼の演奏に対する哲学は、「準備したものを単に披露するだけでは芸術ではない。創造性のない芸術は死んだ芸術だ」という言葉に集約される。ステージ上での演奏は単なる肉体的な行為ではなく、創造的な、ある種形而上学的な営みであるべきだと考えている。

これまでにニューヨークのカーネギーホール、ロンドンのウィグモア・ホール、パリのサル・ガヴォー、そして東京のサントリーホールなど、世界各地の著名なコンサートホールで演奏を行っている。2018年には東京で開催されたワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団とのニューイヤーコンサートにて、天皇・皇后両陛下（当時）ご臨席のもと演奏する栄誉に浴した。

また、多くのオーケストラとの共演も重ねており、日本の東京交響楽団、読売日本交響楽団をはじめ、シドニー交響楽団、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団など、国内外の主要な楽団と共演している。

国際的な評価は数々の受賞歴にも裏付けられている。

2003年チェコ「ピアノ・ヴィルトゥオーゾ」国際コンクール優勝
2004年ルーマニア第9回カルル・フィルチ国際ピアノコンクール優勝
2008年パリスクリャービン国際ピアノコンクール優勝
2008年モスクワ若い音楽家のための第6回ショパン国際ピアノコンクール第2位
2012年ダブリン国際ピアノコンクール優勝
2012年シドニー国際ピアノコンクール第2位（聴衆賞ほか特別賞多数同時受賞）

特に日本との関わりは深く、「日本好き」として知られている。日本語でのメッセージ動画を公開することも多く、日本のファンとの交流を大切にしている。東日本大震災が発生した2011年3月11日に偶然にも初来日を果たしており、その後の定期的な来日は彼のキャリアにおいて重要な位置を占めている。

彼は日本の文学や文化にも深い関心を寄せている。『平家物語』や『方丈記』といった古典文学を愛読し、現代作家では村上春樹の作品も読んでいる。ショパンの音楽が日本で広く受け入れられている理由について、日本人の持つ繊細な感性、特に人生や過去の記憶に美しさを見出す精神性がショパンの音楽性と共鳴すると分析している。歌舞伎鑑賞を好み、自身で作った俳句を披露することもある。

最近の活動としては、2024年7月の来日公演で自身の作曲した「平和の花びら」と「ファンタジー」を日本初演した。「平和の花びら」は2022年にジュネーヴの国連事務局でのリサイタルのために書かれた作品であり、平和への強い願いが込められている。

これまでの主な来日歴は以下の通り。

2011年3月：初来日
2012年4月、10月：ソロ、協奏曲
2013年7月：ソロ
2014年2月、8月、10月、11月：ソロ、協奏曲
2015年4月：ソロ、協奏曲
2016年11月：ソロ、協奏曲
2017年11月：室内楽
2018年1月：協奏曲
2022年5月：ソロ
2024年7月：ソロ（自作曲日本初演）

また、日本ではNHKのクラシック番組に出演するなど、メディアへの登場も少なくない。数枚のCDもリリースしており、ピアニストとしての活動に加え、文化交流の担い手としても注目を集めている存在と言えるだろう。

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