ニコラス・オーウェン (イエズス会士)

ニコラス・オーウェン：迫害下のカトリック司祭を救った伝説の隠れ家職人

ニコラス・オーウェン（生年不詳 - 1606年3月2日）は、16世紀後半のイングランドでカトリック教徒が激しい迫害を受けていた時代に、信仰を守り、多くの命を救った人物です。イエズス会の平修士であり、「リトル・ジョン」の通名で知られていました。彼の類まれなる技術と勇気は、今日に至るまで語り継がれています。

生涯：信仰と隠れ家の職人

オーウェンはオックスフォードで大工の子供として生まれました。正確な生年は不明ですが、1562年頃とする説があります。熱心なカトリック教徒の家庭で育ち、兄弟のうち2人が聖職者になったとも伝えられています。当時のイングランドでは、カトリック教徒は逮捕、拷問、処刑の対象となることもあり、信仰を守ることは命がけでした。

1580年頃、オーウェンはエドマンド・キャンピオン神父の従者としてイエズス会に入会しました。キャンピオン神父が処刑されると、その無実を訴え逮捕されます。1588年頃からはヘンリー・ガーネット神父に仕え、政府の追手から司祭たちを逃がすための「聖職者の巣穴」（司祭の隠れ場）をイングランド各地に建設し始めました。

オーウェンの隠れ家は、落とし戸、隠し扉、地下道、そして巧妙な騙し絵を駆使したものでした。これらの隠れ家は、司祭たちが信仰を守り、ミサを行うための安全な場所となりました。イングランドでは100以上の隠れ家が見つかっており、まだ発見されていないものも存在すると考えられています。

オーウェンは小柄でヘルニアを患っていましたが、18年もの間、狭く暗い場所で過酷な肉体労働を黙々と続けました。その機密性の高さから、ほとんどの場合、一人で昼夜を問わず作業を行ったと言われています。「リトル・ジョン」という通名を使っていたため、彼の本名を知る者はほとんどいませんでした。彼は何度も逮捕されましたが、その都度、機転を利かせて釈放されています。

1597年には、ジョン・ジェラード神父のロンドン塔からの脱出にも関与したと伝えられています。

殉教：拷問に屈せず

1605年、火薬陰謀事件の余波で、オーウェンはハインドリップ・ホールに隠れていたところを、ガーネット神父やエドワード・オールドコーン神父らと共に逮捕されました。政府はオーウェンが隠れ家の情報を知っていると考え、拷問を加えました。しかし、1ヶ月間に及ぶ過酷な拷問にもかかわらず、オーウェンは決して口を割らず、ついに拷問が原因で獄死しました。政府はオーウェンの死を自殺と発表しましたが、実際は拷問死であったと考えられています。

ヘンリー・ガーネット神父は、オーウェンを「素晴らしい信心深さと技術を持った大工であり、無料で隠れ場を提供してくれた」と評しました。ジョン・ジェラルド神父も、「独創的な能力で隠れ場を作り、大勢の命を救った」と称賛しています。アルバン・バトラーは著書『聖人たちの生涯』で、「カトリックが迫害されたこの時代に、一個人でこれほどまでにカトリックに貢献した人物はいないだろう」と述べています。

列聖：信仰の証

1929年12月15日、教皇ピウス11世によって列福され、1970年には教皇パウロ6世によってイングランド及びウェールズの40殉教者の一人として列聖されました。ニコラス・オーウェンの祝日は3月22日です。

隠れ家：信仰を守る砦

ハーヴィントン・ホールやバッダースリー・クリントンなどにある隠れ場所は、オーウェンが制作したものと言われています。これらの隠れ家は、単に隠れる場所であるだけでなく、信仰を守るための砦としての役割も果たしました。

ニコラス・オーウェンの生涯は、信仰を守るために自己犠牲を厭わなかった人々の物語を伝えています。彼の勇気と技術は、歴史に名を刻み、今日でも多くの人々に感銘を与え続けています。

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