ニコロ・アントニオ・ジンガレッリ

ニコラ・アントニオ・ジンガレッリ

生涯

イタリアの作曲家ニコラ・アントニオ・ジンガレッリ（Nicola Antonio Zingarelli）は、1752年4月4日にナポリで生を受けました。幼い頃から音楽に親しみ、7歳からは故郷ナポリにあるサンタ・マリア・ディ・ロレート音楽院で、高名なフェナローリやスペランツァに師事し、音楽の基礎をしっかりと築きました。

初期のキャリアではオペラ作曲を中心に活動し、1781年にサン・カルロ劇場でオペラ・セリア『モンテズマ』を発表し、作曲家としてデビューしました。この作品は、当時のナポリの聴衆にはやや理論的すぎると受け止められた面もありましたが、一定の注目を集めることに成功し、後にはハイドンによってエステルハージ宮殿でも再演されています。

1789年から1790年にかけてはパリに滞在し、オペラ『アンティゴネ』を作曲しました。この作品にはフランス・オペラで試みられていた新しい手法も取り入れられていましたが、パリでの人気は限定的でした。折しもフランス革命が勃発し、ジンガレッリは急ぎイタリアへの帰国を決意します。この経験からか、彼は以降、革新的な試みを控え、定評のある作曲技法を用いるようになりました。

イタリア帰国後、ジンガレッリは各地で重要な音楽的地位を歴任します。1793年にはミラノ大聖堂の楽長に就任し、翌年までその職を務めました。その後、イタリア中部ロレートにあるサントゥアリオ・デッラ・サンタ・カーザの楽長という、より評価の高いポストに移りました。

1804年には、ローマのシスティーナ礼拝堂の合唱指揮者に任命されました。敬虔なカトリック教徒であり、イタリアの愛国者でもあった彼は、政治的な出来事に関わることになります。1811年、当時ローマ王とされていたナポレオンの息子（ナポレオン2世）の誕生を祝うサン・ピエトロ大聖堂での「テ・デウム」の指揮を断固として拒否したため、逮捕され、囚人としてパリへ送還されました。しかし、皮肉にもナポレオン自身がジンガレッリの音楽の愛好家であったため、彼はすぐに解放され、さらに政府からの恩給を受けられるという厚遇を得ることになりました。

1813年、ジンガレッリは故郷ナポリに戻り、音楽院の学長に就任しました。教育者としても非常に優れた手腕を発揮し、ヴィンチェンツォ・ベッリーニ、マイケル・コスタ、サヴェリオ・メルカダンテといった、後に続く重要なイタリア人作曲家や音楽家を数多く育成しました。1816年には、ジョヴァンニ・パイジエッロの後任としてナポリ大聖堂の合唱指揮者に就任し、1837年5月5日にトッレ・デル・グレーコで息を引き取るまで、この職に留まりました。彼の訃報に際し、弟子であるベッリーニは追悼のための『葬送交響曲』を作曲しました。

主要作品

オペラ

キャリア初期において、ジンガレッリは特にオペラ作曲に注力しました。デビュー作『モンテズマ』以降、生涯で多くのオペラを手がけました。特に1785年から1803年にかけては、ミラノのスカラ座のために精力的に作曲を行い、その中でも『モンフレゴーゾの市場』や『奪われた桶』といった作品はすぐに成功を収めました。今日、彼のオペラの中で最も高く評価されているのは『ジュリエッタとロメオ』です。また、最後に作曲されたオペラ『アルメニア女王ベレニーチェ』は、ローマでの初演以降、生涯を通じて広く受け入れられました。現存する作品や失われた作品を含め、彼のオペラは多岐にわたります。

宗教音楽

深い信仰心を持っていたジンガレッリは、宗教音楽の分野でも数多くの重要な作品を残しました。ロレートのサントゥアリオ・デッラ・サンタ・カーザ楽長時代には、ミサ曲、オラトリオ、カンタータ、モテットなど、実に541曲もの楽曲を創作したと言われています。これには28曲のミサ曲が含まれます。晩年においても創作意欲は衰えず、1829年にはバーミンガム音楽祭のためにカンタータを作曲し、死去のわずか1ヶ月前にはオラトリオ『エジプトへの逃避』を上演しました。彼の葬儀で演奏されたレクイエムは、彼が篤く信仰した教会の伝統的な様式を反映しているとされています。

ニコラ・アントニオ・ジンガレッリは、18世紀後半から19世紀にかけてのイタリア音楽界において、作曲家としてだけでなく、優れた教育者としても多大な影響を与えた人物です。

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