ニザミア天文台

ニザミア天文台の歴史と変遷

ニザミア天文台は、インドのハイデラバードで1901年に設立された、天文学研究における重要な役割を担ってきた天文台です。設立当初は、アマチュア天文家でもあったナワブ・ザファール・ジャングの尽力により、15インチ屈折望遠鏡と8インチアストログラフが導入され、観測を開始しました。その後、1960年代には、より観測に適した場所としてジャパル・ランガプール天文台が建設されました。

誕生と初期の活動

ニザミア天文台の創設者であるナワブ・ザファール・ジャングは、イギリスで教育を受けたハイダラーバード藩王国の貴族であり、熱心なアマチュア天文家でした。彼は、イギリスから購入した15インチ屈折望遠鏡を基に、天文台の設立を藩王に願い出ました。1901年、藩王マフブーブ・アリー・ハーンはこれを許可し、天文台は「ニザミア天文台」と名付けられました。ザファール・ジャングは、マドラス天文台やコダイカナル天文台で活躍したチャールズ・ミッキー・スミスを招き、望遠鏡の設置と調整を行いました。

藩王府時代

1907年にザファール・ジャングが亡くなると、ニザームは天文台を藩王府の管轄とし、アーサー・チャットウッドが台長に就任しました。天文台の最初の所在地であるフィサルバンダは観測に適さないと判断され、チャットウッドはベグンペットの高台に天文台を移転しました。移転後、アストログラフ棟や研究室、宿舎などが建設され、1914年には15インチ屈折望遠鏡棟も完成しました。

写真天図星表計画への貢献

ニザミア天文台は、写真天図星表計画において、重要な役割を果たしました。この計画は、全天の詳細な写真星図を作成するもので、世界中の18の天文台が分担して観測を行いました。当初、チリのサンティアゴ天文台が担当していた赤緯-17°から-23°の範囲の観測が難航したため、ニザミア天文台がその観測を引き継ぎました。ロバート・ポーコックの指導のもと、ニザミア天文台は写真天図星表の作成に尽力し、1917年には星表の第1巻を刊行しました。

オスマニア大学への移行

1918年にオスマニア大学が開学すると、1919年にニザミア天文台は大学の管轄となりました。ポーコックの死後、バスカランが台長となり、非ヨーロッパ出身者として初めて台長に就任しました。ニザミア天文台は、恒星の位置観測や時刻の補正、日出・日没時刻の提供などを行っており、藩王国全体の正確な時刻や暦を保守する役割も担っていました。

資金不足で中断していた15インチ屈折望遠鏡の設置も再開され、1924年からは変光星の測光観測や月による掩蔽の観測などの実績を上げました。また、気象観測や地震観測も行われ、藩王国全体の気象データ収集にも貢献しました。1928年には、ニザミア天文台が分担する赤緯-17°から-23°帯の写真天図星表が完成しましたが、ポツダム天文台の分担であった赤緯+39°から+36°帯の再観測も行うことになりました。

1939年には、ヘールのスペクトロヘリオスコープが導入され、太陽観測も開始されました。国際地球観測年（1957-1958年）における国際的な太陽観測計画にも参加しました。

ジャパル・ランガプール天文台の建設

1950年代に入ると、写真乾板の入手が困難になり、ベグンペットの光害も深刻化したため、新たな観測拠点としてジャパル・ランガプール天文台の建設が計画されました。1956年には、オスマニア大学に新望遠鏡建設の資金提供が認可され、翌年には48インチ反射望遠鏡が発注されました。新望遠鏡は、ハイデラバード市から約45km南東のランガプール村近くの丘の上に設置され、1971年から観測が開始されました。ジャパル・ランガプール天文台は、1980年の日食の際には、観測拠点として活用されました。

天文学応用研究センター

ニザミア天文台は、1935年からオスマニア大学で天文学の講義を担当するようになりました。1958年には大学助成委員会の認可を受けて天文学科が開設され、1961年には天文学の修士課程も整備されました。1964年、天文学科、ニザミア天文台、ジャパル・ランガプール天文台を統合し、天文学応用研究センター（CASA）が設立されました。

望遠鏡の紹介

ニザミア天文台の設立当初からの望遠鏡は、グラッブ商会製の15インチ屈折望遠鏡で、当時のインドでは最大級でした。写真天図星表の観測には、クックの8インチアストログラフが使用されました。ジャパル・ランガプール天文台の主力望遠鏡は、48インチカセグレン式反射望遠鏡で、クーデ焦点も備えていました。

現状と今後の課題

ニザミア天文台は、現在では観測に適さない環境となり、望遠鏡も移設され、物置同然の状態となっています。ジャパル・ランガプール天文台も、都市化による光害の問題に直面し、48インチ望遠鏡は本来の用途では使用されていません。オスマニア大学はこれらの施設の活用を検討していますが、資金調達が課題となっています。敷地を活かして技術専科学校に作り変える計画も持ち上がっています。

ニザミア天文台は、その歴史と貢献において、インド天文学の重要な遺産であり、その将来の活用が期待されています。

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