ニッコウコウモリ

ニッコウコウモリ（日光蝙蝠）

ニッコウコウモリ（学名：Parasenecio nantaicus）は、キク科コウモリソウ属に分類される日本固有の多年草です。別名としてナンタイコウモリとも呼ばれています。

特徴

ニッコウコウモリは、斜め上方向に伸びる根茎、または地中を横に這う根茎を持っています。茎は直立し、高さは50cmから90cm程度に成長します。茎の中ほどに付く葉は、草のような質感、またはやや革のような質感で、三角形に近いほこ形をしています。葉の大きさは長さ7cmから17cm、幅8cmから14cm程度で、中央と両側の裂片の先端が尾状に長く尖っているのが特徴です。葉柄には翼がなく、基部は茎を半分ほど抱き込み、小さな耳のような形状をしています。葉鞘は円筒状にはなりません。

花期は9月頃で、頭状花序が総状花序として、または単独で付き、下向きに花を咲かせます。花はすべて両性の筒状花で構成されており、頭花の柄は長さ15mmから30mm程度です。花柄の基部には、長さ2cmほどの線形で大きな苞があります。総苞は筒状で、他の種よりも大きく、長さは12mmから15mm程度、総苞片は1列に7個から9個並んでいます。1つの頭花は10個から15個の小花で構成されています。花冠の長さは約7mm、果実は円柱形の痩果で、長さ約7mm、稜が目立ちます。冠毛は白色で、長さ5mmから6mm程度です。

分布と生育環境

ニッコウコウモリは日本固有種であり、本州の関東地方北部（日光山地、谷川連峰など）に分布しています。温帯域の夏緑林の林内や林縁、亜高山帯の灌木林の縁や草原などに生育します。

しかし、近年はニホンジカによる食害が深刻化しており、特に日光山地では壊滅的な状況にあると報告されています。かつては日光白根山の五色沼畔が代表的な産地でしたが、前白根山側のダケカンバ林の林縁に群生していたニッコウコウモリは、1991年以降ニホンジカの食害によって消滅し、現在はほぼ絶滅状態にあります。

名前の由来

ニッコウコウモリは、1912年に小松によって日光の男体山で採集された標本をもとに、Cacalia属の独立種として Cacalia nantaica Komatsu として発表されました。その後、1938年に北村四郎によって、ウラゲヨブスマソウの下位分類である Cacalia hastata L. subsp. orientalis Kitam. var. nantaica (Komatsu) Kitam.として組み替えられました。

和名のニッコウコウモリは、「日光蝙蝠」に由来し、種小名の nantaicus は、基準産地である「男体山」を意味しています。別名のナンタイコウモリも同様の由来を持ちます。

種の保全状況評価

ニッコウコウモリは、環境省レッドリストにおいて、絶滅危惧IA類 (CR) に指定されています。（2017年、環境省）

保全に向けた課題

ニッコウコウモリの保全のためには、ニホンジカの個体数管理と食害対策が不可欠です。また、生育地の環境保全や、種子の採取・保存といった対策も重要となります。地域住民や関係機関と連携し、ニッコウコウモリの保護に取り組む必要があります。

もう一度検索