ニヌルタ

ニヌルタ：古代メソポタミアの英雄神

ニヌルタ（𒀭𒊩𒌆𒅁、Ninurta）は、古代メソポタミアにおいて、農耕、治癒、狩猟、法、筆記、そして戦争を司る神として崇拝されていました。シュメル時代に起源を持ち、アッシリア時代にかけてその信仰は広がり、様々な神話や儀式を通じて、メソポタミアの人々の生活に深く根ざしていました。

ニヌルタの起源と変遷

ニヌルタは、シュメル時代には主に農業と治癒の神として崇拝されていました。人々の病を癒し、悪霊から守る存在として、その恩恵を人々は求めたのです。しかし、メソポタミア社会が軍事化するにつれて、ニヌルタは戦士としての側面を強めていきました。農耕神としての性格も持ちながら、勇敢な戦士神としての性格が加わっていったのです。

ニヌルタは、神々の長であるエンリル神の息子とされ、ニップル市のエ・シュメシャ神殿が信仰の中心でした。また、ラガシュのグデア王は、ニンギルス（ニヌルタの別名）を称え、ラガシュに神殿を再建しました。

アッシリア時代に入ると、ニヌルタは戦士としての性格がより強調され、アッシリア人から英雄神として崇拝されるようになりました。アッシリア王アッシュル・ナツィルパル2世は、カルフにニヌルタ神殿を建設し、そこがニヌルタ信仰の重要な拠点となりました。

ニヌルタに関連する神話

ニヌルタは、数多くの神話に登場します。その中でも特に有名なのは、叙事詩『ルガル・エ』でしょう。この物語では、ニヌルタは喋る棍棒シャルルを武器に、悪魔アサグを打ち倒します。そして、アサグを倒した後に、石を用いてティグリス川とユーフラテス川を灌漑できるようにし、人々に恵みをもたらしました。また、シュメルの『農事歳時記』では、ニヌルタは農民に農業に関する様々な助言を与えています。

別のアッカド神話では、ニヌルタは父エンリル神から天命の書板を盗んだアンズー鳥に立ち向かう英雄として描かれています。また、「殺された勇士たち」と呼ばれる戦士たちを殺害した神としても知られています。

ニヌルタのシンボルは、止まり木に止まった鳥と鋤です。これらのシンボルは、ニヌルタの戦士としての側面と農耕神としての側面を象徴しています。

信仰と図像学

ニヌルタは、メソポタミアにおいて最も古くから信仰されていた神の一柱です。シュメルの都市国家ニップルのエ・シュメシャ神殿が信仰の中心であり、都市神エンリルの息子として崇拝されていました。ニヌルタとニンギルスは密接に関連しており、ギルスの重要性が低下するにつれて、ニンギルスはニヌルタとして認識されるようになりました。

カッシート時代のクドゥルには、鋤がニンギルスのシンボルとして描かれています。また、新アッシリア時代には、木に止まった鳥がニヌルタのシンボルとして使用されました。

後世への影響

ニヌルタは、後の時代にも様々な影響を与えました。『旧約聖書』に登場するニムロドは、ニヌルタの影響を受けていると考えられています。また、『旧約聖書』「列王記下」に登場するニスロクは、ニヌルタの誤記である可能性が指摘されています。

19世紀には、カルフのニヌルタ神殿から発見された有翼鷲頭の人物像が「ニスロク」であるという誤った認識が広まり、ファンタジー文学にも影響を与えました。

2016年には、ISILがカルフのニヌルタのジッグラトを破壊しました。これは、イスラムの過激な解釈と合致しない古代遺構を破壊するというISILの政策によるものでした。

2020年には、ギルスの遺跡で5000年前の聖域が発見され、ニンギルスに捧げる儀式の行列で使用された陶器や動物の骨が出土しました。

ニヌルタは、古代メソポタミアの神々の中でも、特に重要な存在でした。その信仰は、シュメル時代からアッシリア時代にかけて広がり、様々な神話や儀式を通じて、メソポタミアの人々の生活に深く根ざしていました。英雄神として、また人々の守護者として、ニヌルタは長く人々に崇拝されたのです。

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