ニホンノウサギ

ニホンノウサギ（日本野兎）

ニホンノウサギ（学名：Lepus brachyurus）は、ウサギ目ウサギ科ノウサギ属に分類される日本固有種です。かつては単に「ノウサギ」と呼ばれていました。

分布

ニホンノウサギは、本州、四国、九州および周辺の島嶼にのみ生息する固有種です。長崎県が模式産地とされています。

形態

体長は45 - 54センチメートル、尾長は2 - 5センチメートル、体重は1.3 - 2.5キログラム程度です。耳長は7 - 8センチメートル、後足長は12 - 15センチメートル。全身の毛衣は通常褐色ですが、腹部は白い毛で覆われています。耳の先端には黒い体毛が生えています。

特に、東北地方や日本海側の積雪地帯に生息する個体群（トウホクノウサギ）や佐渡島の個体群（サドノウサギ）は、冬季に全身の毛衣が白くなることが知られています。これは積雪に対する保護色としての役割を果たしており、秋頃から体毛の色が抜け始め、冬には耳の先端の黒い部分を除いて全身が白くなります。早春になると再び白い体毛が抜け落ち、赤褐色から茶褐色の体毛が生えてきます。

分類

種名のbrachyurusは「短い尾のノウサギ」という意味を持ちます。

ニホンノウサギは、以下の4亜種に分けられることがあります。これらの亜種は毛色や後足長によって区別されますが、分布域の境界が不明瞭であることや、毛色が日照時間や気温によって変化することから、特に亜種トウホクノウサギの有効性については疑問視する説もあります。

1. Lepus brachyurus brachyurus Temminck, 1845 キュウシュウノウサギ
本州（太平洋側）、四国、九州に分布する固有亜種
2. Lepus brachyurus angustidens Hollister, 1912 トウホクノウサギ
本州（日本海側）に分布する固有亜種
亜種エチゴウサギL. b. etigo Abe, 1918はシノニムとされています。
3. Lepus brachyurus lyoni Kishida, 1937 サドノウサギ
佐渡島に分布する固有亜種
4. Lepus brachyurus okiensis Thomas, 1906 オキノウサギ
隠岐諸島に分布する固有亜種

生態

ニホンノウサギは、亜高山帯までの草原や森林に生息します。主に低山地から山地にかけて見られます。群れは形成せず、単独で生活することが特徴です。特定の巣は持たず、ねぐらを中心に半径約400メートルの範囲で行動します。夜行性であり、昼間は藪や木の根元などで休息します。

主な天敵としては、ホンドギツネ、ニホンイタチ、ニホンテンなどの食肉類や、イヌワシ、クマタカなどの猛禽類が挙げられます。

食性は植物食で、葉、芽、樹皮などを食べます。

繁殖に関しては、北部の地域（山形県など）では冬から夏にかけて、南部の地域（鹿児島県など）では一年中繁殖を行います。メスは複数のオスと交尾し、特定のつがいを作りません。

繁殖形態は胎生で、妊娠期間は42 - 47日です。1回に1 - 4頭（主に2頭）の幼獣を年に3 - 5回に分けて産み、年間約10頭の幼獣を産みます。幼獣は生後1週間ほどで自分で植物を食べ始めることができ、1ヶ月ほどで独立します。8 - 10ヶ月で性成熟し、繁殖に参加できるようになります。寿命は4年未満と比較的短く、野生下では1 - 2年程度です。

人間との関係

ニホンノウサギは、かつては簡単な罠で捕獲され、食用や毛皮として利用されていました。現在でも狩猟対象の鳥獣（獣類20種）の一つです。一方で、農作物やスギ、ヒノキなどの植林の苗木を食害する害獣とみなされることもあります。植林が盛んであった時期には被害が深刻でしたが、近年は減少傾向にあります。例えば、1967年の林野庁の統計では全国で6万1千ヘクタールの被害がありましたが、2014年の統計では71ヘクタールとなっています。

開発による生息地の減少や害獣としての駆除などによって、生息数は減少しています。1959-1963年に食害対策として人為的に移入されたホンドテンの影響により、亜種サドノウサギは生息数が減少し、新潟県のレッドデータブックでは準絶滅危惧種に指定されています。

各都道府県のレッドデータブックにおける指定状況は以下の通りです。

L. b. brachyurus キュウシュウノウサギ
埼玉県版レッドデータブック - 地帯別危惧（RT)
山口県版レッドデータブック - 準絶滅危惧
鹿児島県版レッドデータブック - 分布特性上重要
L. b. angustidens トウホクノウサギ
山口県版レッドデータブック - 情報不足
L. b. lyoni サドノウサギ
準絶滅危惧（NT）（環境省レッドリスト）

参考文献

今泉吉典、松井孝爾監修 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社、1984年、45、220頁。
今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編 『動物大百科5 小型草食獣』、平凡社、1986年、136頁。
川道武男 『ウサギがはねてきた道』、紀伊國屋書店、1994年、270頁。

関連項目

* 日本の哺乳類一覧#ウサギ目（兎目、重歯目）

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