ニムルドの王妃の墓

ニムルドの王妃の墓：古代アッシリア王国の栄華と謎

ニムルドの王妃の墓は、古代メソポタミアに栄えた新アッシリア帝国の首都、ニムルド（現在のイラク北部）の遺跡で発見された4基の墓です。1988年、考古学者ムザヒム・フセインによって発見され、新アッシリア帝国の王妃たちの埋葬習慣や文化、そして当時の社会構造を知る上で非常に重要な発見とされています。

発見と発掘の経緯

ニムルドの発掘は1840年代に始まり、オースティン・ヘンリー・レヤードによって都市遺構が発見されました。その後、マックス・マローワンが発掘を指揮し、北西宮殿の地形図作成に貢献しました。1951年には、マローワンによって「ハレム区画」と呼ばれる区画が発見されましたが、彼は北西宮殿の南部分の焼成レンガで舗装された床の下は調査しませんでした。

1980年代後半、イラク考古省がニムルドの北西宮殿の発掘を再開し、ムザヒム・マフムード・フセインらのチームによって4基の王妃の墓が発見されました。これらの墓には、新アッシリア帝国の王族女性の遺体とともに、貴重なジュエリー、装飾品、陶器などが納められていました。

王妃の墓の概要

王妃の墓は、アッシュル・ナツィルパル2世とその息子シャルマネセル3世によって、北西宮殿の住居棟の下に建設されました。墓は、泥レンガ、焼成レンガ、石灰岩などの部材で作られ、ヴォールト天井を持つ構造でした。墓の中には、石棺や個人的な品々が納められており、その多くは貴重な材料で作られ、遠方の地域から来たものでした。

Tomb I

Tomb Iは、焼成レンガで作られたヴォールト天井を持つ部屋で発見されました。石棺に埋葬されていた女性は、死亡時50代前半であり、王族の血統に連なっていたと思われますが、地位は低かったと考えられています。墓からは、印章、鎖、フィビュラ、指輪、ブレスレット、イヤリング、ビーズ、アミュレット、エロティックな人形、アラバスター製の小瓶などが見つかりました。

Tomb II

Tomb IIは、焼成レンガと石でできた部屋で、床は大理石の平板で閉鎖されていました。方解石で作られた石棺の中には、2名の女性の遺体が入っており、片方がもう一人の上に横たわっていました。上の遺体はサルゴン2世の王妃アタリアであると特定され、もう1人の遺体はティグラト・ピレセルの王妃（イアバ）であると考えられています。墓からは、金の王冠、冠の断片、金の器、金の小瓶、水晶の杯、鏡、イヤリング、首飾り、ネックレス、髪飾り、ペンダント、金の鎖、ブレスレット、アームレット、指輪、アンクレット、服飾品、銀製品、銅/青銅製品、石製品、象牙、骨、木製品、陶器類などが見つかりました。

Tomb III

Tomb IIIは、石灰岩の平板で覆われた焼成レンガ製のヴォールト天井を持つ部屋で発見されました。墓の中には灰色のアラバスターで出来た石棺がありましたが、骨の破片とビーズしか残っていませんでした。しかし、前室からは3つの青銅製の棺が見つかり、12人以上の人骨の部位がありました。棺の一つは、シャルマネセル3世の王妃ハマのものであると特定されました。ハマの遺体は黄金の冠を身に着けており、これはニムルドの王妃の墓の発掘で最も有名な発見の1つです。

Tomb IV

Tomb IVは、焼成レンガの板で封鎖されたアーチ状の入口を持つ部屋で発見されました。墓の中からは長方形の石棺が見つかりましたが、遺品は僅かしか残っていませんでした。墓は古代に略奪を受けており、遺物がほとんどなくなっていましたが、残存する要素は他の王妃の墓と同様のものであることが確認されています。

王妃の墓から得られた知見

王妃の墓の発見と発掘によって、新アッシリア時代の王室の埋葬儀礼や家庭生活、社会構造、身体的健康、日々の生活についてユニークかつ多様な知見が得られました。墓から発見されたジュエリーや装飾品は、新アッシリア帝国の職人技術の高さを物語っており、当時の文化や価値観を反映しています。また、墓に埋葬された王妃たちの名前や身分を知ることで、新アッシリア帝国の王室の系譜や権力構造を理解する手がかりとなります。

王妃の墓の現状と課題

王妃の墓は、発見以来、データの識別・記録・保存に常に障害が伴ってきました。墓は古代の再埋葬や略奪によって、元々のドレスや遺品の配置がわからなくなってしまっています。また、発掘作業が急ピッチで行われたため、寸法、発見位置、写真、詳細な説明が漏れた場合もあります。さらに、遺品が保管されていたバグダードの中央銀行が爆撃を受け、多くの遺品が損傷を受けました。

近年では、ISIL（イラク・レヴァントのイスラム国）によってニムルドの古代遺跡が破壊され、王妃の墓も大きな被害を受けました。遺跡の破壊と略奪は現在も続いており、王妃の墓の遺跡とその遺品の保存と安全維持に深刻な脅威を与えています。

まとめ

ニムルドの王妃の墓は、「20世紀後半における最も重要な考古学発見の1つ」ですが、戦争の混乱と言語的障壁のために西側ではしばしば見過ごされ過小評価されてきました。しかし、王妃の墓は、新アッシリア帝国の歴史と文化を解き明かす上で貴重な手がかりであり、その保存と研究が急務となっています。

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