オースティン・ヘンリー・レヤード

サー・オースティン・ヘンリー・レヤードの生涯

サー・オースティン・ヘンリー・レヤード（Sir Austen Henry Layard, 1817年3月5日 - 1894年7月5日）は、イギリスの著名な旅行家、考古学者、楔形文字研究者、美術史家、美術品収集家、作家、政治家、そして外交官でした。彼は、ニムルド遺跡の発掘によってその名を知られています。レヤードは、多岐にわたる分野で才能を発揮し、その生涯は非常に多彩で波乱に満ちたものでした。

家族

レヤードは、フランスのパリでユグノーの家系に生まれました。父親はイギリス領セイロンの公務員、祖父はブリストルの司祭長、曽祖父は医師という家系でした。母親方の祖父はケントの銀行家で、スペインの血も引いていました。叔父のベンジャミン・レヤードはロンドンの事務弁護士で、ベンジャミン・ディズレーリと親交がありました。また、27歳年下の妻エニドは、『マビノギオン』で知られるシャーロット・ゲストの娘の一人です。

前半生

少年時代の多くをイタリアで過ごし、学校に通いながら美術への関心を深め、旅を好むようになりました。その後、イングランド、フランス、スイスの学校にも通いました。叔父の事務所で6年間過ごした後、1839年にセイロンでの公務員の職を得るためイギリスを離れ、ヨーロッパとアジアを陸路で横断する旅を始めました。

数ヶ月間、主にペルシアを放浪した後、セイロンでの職を諦め、1842年にコンスタンティノープルに戻りました。そこで、イギリス大使ストラトフォード・カニングと知り合い、非公式な外交任務に携わるようになりました。1845年、カニングの支援を得てコンスタンティノープルを離れ、アッシリア遺跡の調査旅行に出発しました。レヤードは、以前の中東旅行で、チグリス川沿いのニムルド遺跡や、ポール・エミール・ボッタが一部発掘していたモースル近郊のクユンジクの塚に強い関心を持っていました。この調査旅行は、その時の野望を実現するためのものでした。

遺跡発掘

レヤードはモースル近郊に拠点を構え、クユンジクとニムルドの発掘を1847年まで続けました。1848年にイングランドに帰国し、著書『Nineveh and its Remains』を出版しました。この著書は、クルディスタンのカルデア人キリスト教徒や、ヤズィーディー教徒（悪魔崇拝者）への訪問記、古代アッシリア人の風習や芸術についての研究も含まれていました。また、古代遺跡の図解本『Illustrations of the Monuments of Nineveh』も出版しました。数ヶ月間イングランドで過ごした後、オックスフォード大学から博士号を授与され、コンスタンティノープルに戻り、イギリス大使館員となりました。1849年夏には2度目の調査旅行に出かけ、バビロン遺跡や南メソポタミアのいくつかの塚も調査しました。この時、アッシュールバニパルの図書館を発見したとされています。

これらの調査を記録した『Discoveries in the Ruins of Nineveh and Babylon』と図解本『A Second Series of the Monuments of Nineveh』を1853年に出版しました。これらの困難な調査を通じて、レヤードは多くの出土品をイギリスに送り、それらは現在の大英博物館のアッシリアコレクションの大部分を形成しています。クユンジクをニネヴェと特定したことや、多数の出土品をもたらしたことは、レヤードの考古学における大きな功績です。また、彼の調査旅行を描いた2つの著作は、英語で書かれた旅行記としても最高傑作との評価を受けています。

1866年、レヤードは「A Compagnia Venezia Murano」を設立し、ロンドンにベネチアングラスの店を開きました。この会社は現在、「Pauly & C. - Compagnia Venezia Murano」として、ベネチアングラスの代表的なブランドの一つとなっています。同年、大英博物館の理事にも任命されました。

政治家としての経歴

レヤードは後に政治家に転身しました。1852年にはバッキンガムシャーのアリスバーリーから自由党員として当選し、数週間だけ外務次官を務めましたが、その後は政府を批判する立場を取りました。特に軍隊管理には批判的であり、クリミア戦争の際にはクリミア半島に赴き、遠征の指揮を調査する委員会の委員を務めました。1855年にはパーマストン子爵から外交とは無関係の官職を提示されましたが、これを断り、アバディーン大学の名誉総長に選出されました。1857年にアリスバーリーでの選挙で敗れた後、インドを訪問して反乱の原因を調査しました。1859年にはヨークでの選挙でも敗れましたが、1860年にはサウスウォークで当選し、1861年から1866年まで外務次官を務めました。1868年にウィリアム・グラッドストン率いる自由党が政権を握ると、レヤードは建設長官となり、枢密院の一員となりました。

外交官としての経歴

1869年、レヤードはそれまでの官職を辞し、マドリードに特別外交使節として赴任しました。1877年には駐コンスタンティノープル大使に任命されました。しかし、1880年の政権交代に伴い大使を解任され、完全に引退することになりました。1878年のベルリン会議では、バス勲章のナイト・グランド・クロスを授与され、ナイトの爵位を得ました。

ベネチアでの引退生活

引退後はベネチアに住み、ベネチア派の絵画を収集したり、イタリア美術について執筆活動をしたりして過ごしました。この分野では、ジョヴァンニ・モレッリの弟子でした。レヤードは、モレッリの著書『Italian Painters』の英語版の序文を執筆し、『Murray's Handbook of Rome』の絵画に関する部分の編集にも携わりました。1887年には、最初の中東旅行の際の日記を基にした『Early Adventures in Persia, Susiana and Babylonia』を出版しました。これを短縮して読みやすくした版が、レヤードの死の直前に出版されました。レヤードはまた、自身が初代会長を務めたユグノー学会を含む、様々な学会に論文を寄稿していました。

1894年、ロンドンで亡くなりました。

主な著作

『Inquiry into the Painters and Arts of the Ancient Assyrians』 (1848-49)
『Nineveh and its Remains』 (1849)
『Illustrations of the Monuments of Nineveh』 (1849)
『The Monuments of Nineveh』 (1849-53)
『Inscriptions in the cuneiform character from Assyrian monuments』(1851)
『A Popular Account of Discoveries at Nineveh』 (1852)
『Discoveries in the Ruins of Nineveh and Babylon』 (1853)
『A Second Series of the Monuments of Nineveh』 (1853)
『The Ninevah Court in the Crystal Palace』(1854)
『Early Adventures in Persia, Susiana, and Babylonia』 (1894)
* 『Autobiography and Letters from his childhood until his appointment as H.M. Ambassador at Madrid』 (1903)

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