ニンファエウム・アレクサンドリ

イタリア、ローマの中心部に位置するヴィットーリオ・エマヌエーレ2世広場の一角に、古代ローマ時代の優れた技術を今に伝える遺構があります。これが「ニンファエウム・アレクサンドリ（Nymphaeum Alexandri）」と呼ばれる施設です。イタリア語では「Ninfeo di Alessandro」として知られています。かつては広大なローマ水道システムの終着点として、街に水を供給する重要な役割を担っていました。具体的には、水道の流末施設であり、水の供給量を調整・分配する「カステルム・アクアエ」、そして市民に潤いをもたらす美しい泉としての機能を兼ね備えていたと考えられています。

建物の特徴と歴史

この古代施設は、耐久性に優れたレンガ張りのローマン・コンクリートという当時の先進的な建築技術を用いて建造されました。建物の特徴的な意匠の一つに、2階部分の張り出しに設置されていた一対の彫像があります。これらは、紀元前1世紀の共和政ローマの政治家・軍人であるガイウス・マリウスの戦いを記念したとされる『マリウスの戦勝像（Trofei di Mario）』と呼ばれていました。

しかし、16世紀末の1590年、時のローマ教皇シクストゥス5世の命により、これらの彫像はローマの七つの丘の一つである Capitoline Hill (カンピドリオの丘) にあるカンピドリオ広場へと移されました。この歴史的経緯から、現在でもこのニンファエウム自体が『マリウスの戦勝像』という通称で呼ばれることがあります。

立地と水源

ニンファエウム・アレクサンドリは、かつてローマから東へ向かう二つの重要な街道、すなわちティブルティーナ街道とラビカナ街道が合流する戦略的な地点に建設されていました。この施設への水の供給源は、ティブルティーナ街道沿いにあるローマの城壁の一部、ティブルティーナ門を経由するローマ水道からの分岐でした。

この分岐点からニンファエウム・アレクサンドリまで水を運んだ水道橋の一部は、現在もその痕跡をとどめています。特に、分岐直後のエリアや Via Guglielmo Pepe の近くには、往時を偲ばせる遺構が残存しています。

ただし、具体的にどのローマ水道がここに接続されていたのかについては、専門家の間でも意見が分かれています。水利学的な高低差に基づく推測からは、紀元1世紀に建造された新アニオ水道かクラウディア水道が有力視される一方、紀元3世紀初頭に建造されたアレクサンドリナ水道だとする説、あるいは共和政期に遡るユリア水道であったとする説もあり、未だ定説には至っていません。この点の解明は、古代ローマの水道網の全容を理解する上で重要な課題となっています。

現代からのアクセス

現在、ニンファエウム・アレクサンドリが位置するヴィットーリオ・エマヌエーレ2世広場は、ローマ市内の交通の要衝の一つとなっています。公共交通機関を利用して容易に訪れることができます。

- 地下鉄: ローマ地下鉄A線の「ヴィットーリオ・エマヌエーレ駅」が最寄り駅です。
- トラム: ATAC（ローマ交通公社）が運行するトラムの5系統または14系統を利用し、「ヴィットーリオ・エマヌエーレ停留所」で下車するとすぐです。
- 鉄道: イタリア最大の駅であるテルミニ駅からも比較的近く、駅の南側プラットホーム（おおよそ24番線側）の出口からは徒歩約600メートル程度でアクセス可能です。

古代ローマの水道システムや都市生活に関心のある人々にとって、このニンファエウム・アレクサンドリは、当時の技術水準やインフラストラクチャの重要性を肌で感じることができる貴重な史跡と言えるでしょう。ローマを訪れる際には、ぜひ立ち寄りたい場所の一つです。

（関連情報：ローマ水道、ニンファエウム）

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