ネガー (特殊潜航艇)

ネガー：ドイツ海軍の特殊兵器

ネガーは、第二次世界大戦中にドイツ海軍が開発した特殊兵器の一種です。ドイツ語で「黒人」を意味するこの名称は、開発者であるリヒャルト・モーアに由来します。一般的に人間魚雷と評されますが、実際には潜水機能を持たない半潜水艇でした。

構造と特徴

ネガーは、G7e魚雷を基に設計されました。魚雷の弾頭部分をアクリル樹脂製のドームで覆われた操縦室に変更し、艇体下部に弾頭付きの魚雷を搭載しています。潜水艦のようなバラストタンクはなく、プレキシグラス製ドームを水面に出した半水没状態で行動します。

全長: 7.6m
全幅: 0.53m
水中排水量: 2.7t
水中速度: 4.0ノット
航続距離: 48海里（3.0ノット時）
主機: 電動、12馬力
兵装: 魚雷1本
乗員: 1名

操縦は電気レバーで行い、速力調整や潜航装置はありません。手首のコンパスを頼りに航行し、ドレーガー社製の呼吸装置で空気を確保しました。照準は、艇首の突起とドーム上の目盛りを目視で合わせる方式でしたが、波浪の影響を受けやすく精度は高くありませんでした。

実戦と戦果

1944年4月に実戦投入されたネガーは、連合軍の艦艇に対して攻撃を行いました。しかし、操縦員の危険性が高く、出撃の度に高い割合で戦死者が出ました。主な戦果としては、1944年に巡洋艦1隻、駆逐艦1隻、掃海艇3隻を撃沈しています。

ノルマンディー上陸作戦では、連合軍の艦隊に対し大規模な攻撃を2度行いました。7月5日から6日の攻撃では、イギリス軍の掃海艇2隻を撃沈しましたが、帰還できたのは9隻のみでした。7月7日から8日の攻撃では、掃海艇1隻を撃沈、ポーランド軍巡洋艦を大破させましたが、航空機や艦艇からの反撃を受けました。

運用停止とその後

1944年秋以降、損害の大きさからネガーの攻撃は中止され、残存艇は終戦まで待機することになりました。ネガーは特攻兵器として設計されたものではありませんでしたが、魚雷の切り離しに失敗すると艇と操縦手が目標に牽引される危険性がありました。また、外部からしかハッチが開かず、脱出が困難な構造も操縦員の犠牲を大きくする要因となりました。

改良型：マーダー

航続距離を延長した改良型として、マーダー（Marder）が開発されました。艇首を延長し、10m程度の潜水機能が付与されましたが、排水量や速度に大きな変化はありませんでした。マーダーは約300隻が建造されました。

参考文献

Brown, David. Warship Losses of World War Two. Arms and Armour, London, Great Britain, 1990. ISBN 0-85368-802-8.
広田厚司『Uボート入門』光人社（光人社NF文庫）、2012年。ISBN 978-4-7698-2383-4

関連項目

* ドイツ海軍小型戦闘部隊

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